甘えた(ヴィルラン)

今日の夜はヴィルヘルムが呑みに出掛けるから遅くなると言っていたのを思い出した。
一人分だと夕食の支度も気合が入らない。
やっぱり食べてくれる人がいるからこそ、料理って作るのが楽しいのだ。
味気ない夕食を済ませてもまだヴィルヘルムが帰ってくる気配はない。
もしかしたら家に帰ってきた後も呑むかもしれない。
せっかくだから軽くつまめる物でも用意しておこうかな。
ヴィルヘルムが食べるかもしれない、と思うと料理を作る手も捗る。

(私って現金なのかも・・・)

そんな事を思いながら支度を済ませると、やる事もなくなったので入浴も済ませる。
髪を乾かし終わったところで家のドアが開く音がした。

「おかえりなさい、ヴィルヘルム」

駆け足でヴィルヘルムを迎えに出ると顔を真っ赤にしたヴィルヘルムがそこにはいた。

「おー、ただいまー」

「大丈夫?顔真っ赤よ」

「んー」

いつもと違う声のトーン。
ああ、今日は珍しく酔っ払ったんだな。
ヴィルヘルムはお酒が強いらしく、呑みに出掛けても酔っ払って帰宅する事はほとんどない。
片手で足りるくらいしかないだろう。
そんな中でも今日は一番酔っ払っている気がする。
多分これが千鳥足というんだろう。
おぼつかない足取りのヴィルヘルムを支えるようにして部屋の中へ入る。
ソファに座らせると、コップに水を汲んできて渡す。

「はい、飲んで」

「なんだ、これ」

「お水よ」

「みずはいらない。
さけのみてー」

「駄目よ、ヴィルヘルム酔っ払ってるでしょ?」

「よっぱらってねーよ」

潤んだ瞳が熱っぽい。
普段より幼く見えるせいか可愛く思える

「はいはい」

ヴィルヘルムの隣に座ると頭を撫でてみる。
心地よかったのか、甘えるように崩れ落ちて膝枕の体勢になる。
ヴィルヘルムの腕が私の腰にまとわりつく。
まるで抱き枕を抱きしめるようにぎゅっとされる。
先ほどのように頭を撫でてあげると満足げな表情に変わる。

「なあ、ラン・・・」

「なあに?」

「おまえ、おれといて・・・」

言葉を途中で飲み込むと、私のおなかに頬を摺り寄せてくる。
何を言おうとしたのかは分からないけど、おそらくこういう事だろう

「今日ね、ヴィルヘルムがいなくて夕食寂しかったの。
一人分の夕食なんて作り甲斐ないし、やっぱり好きな人のために作るから楽しいんだなって思ったの」

驚いたような瞳で私を見上げる。
そんなに驚くことなんてないのに、呑んでる時に誰かに言われたのかな。
自信満々に見える彼がたまに見せる弱さがたまらなく愛おしいのだ。
多分、ヴィルヘルムはそれを知らない。

「明日は一緒に食べようね」

「・・・ああ」

はにかむように笑うと、ヴィルヘルムは目を閉じてしまった。

「おやすみなさい、ヴィルヘルム」

愛おしい人の頭を撫でながら、いつまでも彼の寝顔を見つめていた。

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