毎朝、アイちゃんを迎えに行く。
再会して以来、付き合う前からの習慣だ。
最初の頃は困ったような顔をしていたアイちゃんだけど、付き合うようになってからは迎えに行くと可愛い笑顔を見せてくれる。
「おはよう、アイちゃん」
「うん、おはよう。アキちゃん」
自然な流れでアイちゃんの手に自分のそれを絡めると恥ずかしそうにしながらも握り返してくれる。
アイちゃんのどんな表情でも愛おしいけれど、やっぱりこう・・・恥ずかしがっている顔というものはぐっと来る。
緩んだ表情をしていると、アイちゃんが俺を見て笑った。
「アキちゃん、変な顔してるよ」
「んー、アイちゃんが可愛くて幸せだなって顔だったんだけどなー」
「っ!もう・・・」
「ほら、のんびりしてると遅刻しちゃうよ!」
愛おしい恋人の手を引いて、走り出した。
授業中、黒板を見つめながらアイちゃんの事を考えていた。
付き合うようになってから大分経つ。
手を繋いだだけで幸せだし、キスもたまにする。
今はそれ以上は求めていない(まぁ、俺も健全な男だし、色々考えはするけど)
だけど、こう・・・中学生日記みたいなお付き合いもどうかなとも思うし。
そうしてふと思い当たった。
中学生日記みたいな原因に。
授業が終わると待ち合わせして、一緒に下校する。
「ねえ、アイちゃん」
「ん、なあに?」
「今日、家寄ってもいい?」
「うん、いいよー」
何も警戒されず、家への訪問を受け入れられるのも嬉しいような悲しいような。
今日の学校での出来事を話している内にアイちゃんの家に到着した。
アイちゃんの部屋に通され、小さなテーブルの前に座った。
女の子らしい部屋だし、アイちゃんの香りがする。
それだけで多分、俺は頬を赤らめているだろう。
やだやだ、恥ずかしい。なんていうかムッツリっぽくて恥ずかしい。
「お待たせ、アキちゃん」
ジュースとお菓子を持って戻ってきたアイちゃんはそれを笑顔でテーブルへ置いてくれた。
そして、俺の隣に座る。
距離が近いことはアイちゃんも分かっているだろう。
自らそういう距離に来てくれるようになったのは嬉しいけど、俺もちょっと恥ずかしい。
「そうだ、アイちゃん。俺の勉強見てよ」
「えぇー。アキちゃん私より頭良いでしょ?」
「そんな事ないんじゃない?お願い、先輩」
にっこり笑って見せると、しょうがないなーと苦笑いを浮かべながらも応じてくれた。
鞄から数学のプリントを取り出し、テーブルへ置いた。
「アキちゃん、私が数学苦手なの知っててやってない?」
「やってないやってない」
本当は知っていたけど、困った顔をするアイちゃんも可愛いから仕方ない。
俺の質問に懸命に答える姿がまた可愛くて、自然と笑みが零れた。
しばらくして、問題を全て解き終わるとアイちゃんがふぅーっと息を吐いた。
「ありがとう、アイちゃん」
「先輩の威厳、守れたかな?」
「うん、守れた守れた」
「ふふ、なら良かった」
鞄にプリントをしまうと、残っていたジュースに手を伸ばす。
口の中を潤すと、俺はアイちゃんの肩を抱き寄せた。
「アキちゃん?」
不思議そうに見上げるアイちゃんの耳元に唇を寄せ、
「ありがとう、アイ」
「・・・っ!!」
顔を離すと、アイちゃんは真っ赤な顔で俺を見つめていた。
「アキちゃん、今・・・っ」
「んー、なに?」
呼んだ俺も結構恥ずかしいんだから。
頬が熱いのを感じていたが、誤魔化すように笑みを浮かべた。
「・・・もう一回呼んで」
なんて可愛らしいおねだりをしてくるからアイちゃんの頬に手を添えてこう言った。
「好きだよ、アイ」