それはある朝のことだった。
昨夜の名残でけだるい身体にムチを打ち、身体を起こす。
隣ではまだ気持ち良さそうに眠るヴィルヘルムがいた。
頭をそっと撫でて、頬にキスを送ると私はベッドから抜け出した。
ベッドの傍に落ちていた寝着などを身につけて、洗面台へ向かう。
まずは顔を洗って、それから朝食の支度をして・・・とこれからの行動を考えていた。
そうして気付いた。
首筋に残る赤い痕に。
「・・・っ!」
思わずそこを手で隠すが、そんな事をしても意味なんてない。
ヴィルヘルムが昨日残したんだ。
こんな見えやすいところにつけて・・・どうやって隠そう。
何かある時くらいしかお化粧をしないがそんな事を言ってる場合じゃない。
コンシーラを取り出して、私は赤い痕を誤魔化すように頑張った。
そんな事をしているうちに彼を起こさなければならない時間を過ぎ、慌しく家を出るはめになった。
「そういえば今朝、どうかしたのか?」
一日の仕事が終わり、夕食の準備をしている私に彼が尋ねる。
「ちょっと寝坊して・・・」
「お前が?珍しいな」
本当は寝坊なんてしていないが、今朝の奮闘を知られるのも少し恥ずかしい。
鍋をかき混ぜているとヴィルヘルムがくんくん、と犬のように匂いをかぎにきた。
「もうすぐ出来るよ」
「いや、そっちじゃなくて」
後ろから私を抱きしめて、首筋あたりを嗅がれる。
それが恥ずかしくて押しのけようとするが抱きすくめられて敵わない。
「なんかいつもと違う匂いする」
「ああ、それは・・・」
きっと化粧品の香りだろう。
私自身は感じない程度の香りなのに気付くなんて驚いてしまう。
香りについて説明するとヴィルヘルムはそのまま首筋に顔を埋めた。
「ふーん?」
ぺろり、と舐められると肌が粟立つ。
「今ご飯の準備してるんだから・・・その」
「はいはい、分かったよ。後でな」
こめかみあたりにキスを落とすと大人しく退散していった。
ほっと息を吐くと、ドキドキと鼓動が激しくなった左胸を撫でる。
入浴も済ませ、いつものようにベッドに入ろうとするヴィルヘルムを後ろから押し倒した。
「うぉっ!?」
驚いたようにそのまま倒れると、身体をよじろうとするが懸命に抑える。
両手で彼の両腕を押さえるように押し付けながら首筋に唇を寄せた。
「・・・っ」
きつくそこを吸い上げれば、ヴィルヘルムの息を飲む声が聞こえた。
もう十分だろうか。
唇を離すが、うっすらと赤くなっただけであっという間に消えてしまった。
「消えちゃった・・・」
「ん?何しようとしてんだ?」
ぐるりと視界が反転して、ヴィルヘルムが私にのしかかる番になった。
「・・・だってヴィルヘルム、しょっちゅう私に痕つけるから」
「ああ、そうだな」
それがどうした?と言う表情にむっとする。
「見えるところにつけられるのが恥ずかしいのを教えてあげようと思ったのに」
首筋につければ少しは気持ちがわかってもらえるかと思ったのに。
「つけるのって難しいんだね」
「んー、そうか?」
そう言って、首筋に顔を埋めるとチクリと甘い痛みが走った。
顔を上げて、そこを見つめるヴィルヘルムは嬉しそうだ。
「ほら、ついた」
「だから!見えるところは駄目だって・・・!」
「じゃあ見えないところにつけてやるかな」
服の釦を一つ一つ外していくヴィルヘルムの手つきに心臓がうるさい。
明日もまた隠すの頑張らないと・・・
そう思いながら私はヴィルヘルムからの口付けを受け入れた。