牽制(寅撫)

※帰還END後。中学生の頃の二人

 

 

小学生の頃から屋上が好きだった。
好きだというと可笑しいかもしれないが、人がいない場所が落ち着く。
中学に上がってからもそれは変わらず、俺は屋上で授業をサボっていた。
季節は春。
日が傾いてくると外は少し肌寒い。
そろそろ帰るか、と身体を起こしたところで屋上の扉が開く音がした。
自分を探しにきた教師だとしたら面倒だ。
息を殺していると、二つの足音が止んだ。

「それで話っていうのは何かしら」

その声には聞き覚えがあった。
九楼撫子だ。
あいつがこんなところで何してんだ?と思えば答えはすぐ分かった。

「九楼さん、その・・・初めて見たときから良いなって思っていて。
良かったら僕と付き合ってもらえないかな」

告白か。
そういえば中学に上がってから告白されることが増えた、と噂で聞いた。
確かに小学生の頃から大人びていて綺麗だとは思っていたが、中学生になり幾分か性格の角が取れて親しみやすくなったんだろう。
こうやって告白の現場に居合わせることは少ないが、加納や英兄弟がそんな事を言っていたのを思い出した。

「ごめんなさい。良く知りもしない貴方とは付き合えないわ」

だが、ばっさり斬る性格は健在のようで俺は声を押し殺して笑ってしまった。
もう少し可愛らしく振ってやればいいのに。

「・・・っ!それならもっと知っていけば」

「ちょっ」

が、そいつは逆上したのか。
撫子の腕を掴んだ。
あ、それはアウトだな。

「おい」

「え?」

「トラっ!?」

突然現れた俺に二人とも驚いた目をしており、撫子から手が離れた。
そのまま二人の間に入り、撫子の腕を掴む。

「こいつはお前みたいな奴が触っていい女じゃねーよ。
とっとと失せろ」

睨むと、おびえた表情を作って男子生徒は逃げていった。

「・・・トラ、また授業さぼってたの?」

「ああ?そんな事どうでもいいだろ」

「よくないわよ・・・もう。
でもトラがいてくれて助かったわ、ありがとう」

ほっとしたような表情を見ればそんな事分かる。

「お前も少しは逆上させない断り方考えれば?」

「・・・だって、なんて言っていいか分からないもの」

「それは好きな奴がいるとか、彼氏がいるとか」

「・・・そんな事」

嘘をつくのが好きじゃないのは知っている。
面倒な事態を避けるにはそれが最適なような気もするが、それは撫子自身が決めるべきことだろう。
掴んでいた腕を放した。

「まぁ、いいや。もう帰ろうぜ」

「うん」

屋上から出て、廊下を歩いていると俺と撫子への視線が集まる。
まあ、そうだろうな。
財閥令嬢と手のつけられない不良が一緒に歩いていれば自然と注目も集まるだろう。
撫子はそういう事を気にするタイプではないので、なんでもないという顔をしていた。

「撫子、手」

「え?」

片手を差し出すと、不思議そうな顔をして俺を見たが大人しく片手を出してきた。
その手を握ると、再び歩き始めた。

「と、とらっ!?手!」

「ん?なんだよ、嫌なら振り払えば?」

ちらりと撫子を見れば、顔が赤い。
なんでもない男に告白されても表情なんて変えなかったくせに。
俺に手をつながれただけで真っ赤になるなんて面白い奴。

「・・・もういいわよ」

これで少しは男共への牽制になるだろう。
そんな俺の思惑なんて知らない撫子は恥ずかしさを誤魔化すように俺を睨んだ。

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