※帰還END後で、高校生の二人のお話。
付き合うことになって数週間経った。
相変わらず毎朝彼女に会える電車は特別なモノで、
寝坊しないように一生懸命頑張っているが今日は少し寝坊してしまった。
朝から全力疾走して、なんとかいつもの時間に間に合う。
「央・・・大丈夫?」
「うん、全然余裕っ!」
「・・・肩で息してるけど?」
「撫子ちゃん。男の見栄っ張りは黙って受け流してくださいっ!」
撫子ちゃんに会いたくて俺は一生懸命になってしまう。
だって彼女に朝会えた日はすっごい幸せだし、会えない日は元気が出ない。
撫子ちゃんがポケットから真っ白な生地に小花が刺繍された彼女らしいハンカチを取り出して僕に差し出した。
「汗拭いて」
「ありがと、撫子ちゃん」
こめかみから滴り落ちた汗をそれで拭う。
彼女の綺麗なハンカチを汚してしまうのは申し訳ないな、と思いつつもふんわりと優しい香りがするソレはなんだか彼女みたいで幸せな気分になった。
ホームに止まり、多くの人が乗り込んでくる。
いつもこのホームで人が増える為、押しつぶされそうになる。
本当なら席に座っているのだけれど、今日は僕が来るのがギリギリだった為、入り口の傍に二人で立っている。
撫子ちゃんが押しつぶされないように壁に寄せて、庇うような格好でその前に立つ。
「きゃっ」
「大丈夫?撫子ちゃん」
「うん、ありが・・・」
撫子ちゃんは見上げ、俺は彼女を見下ろすと思いのほか顔が近くて二人で顔を赤らめた。
意識しないように視線を逸らしても、意識せずにはいられない距離にいる彼女からはさっき借りたハンカチのように優しい香りがする。
「撫子ちゃんっていい香りするよね」
「・・・そうかしら」
「うん、なんかこうぎゅーっとしたくなる香り」
「・・・央」
ますます顔を赤くする撫子ちゃん。
ああ、本当に可愛いなぁ。
思わずかすめるように額に口付けた。
「・・・っ!」
「たまには満員電車も悪くないかも」
「もう・・・」
困ったように笑う彼女はやっぱり可愛くて、僕もつられて微笑んだ。