だって見たもの(駆こは)

駆くんがブーケを納品に行っている間、いつものように千里くんたちのおうちへお邪魔していた。
暁人くんが煎れてくれたお茶とお茶菓子を前にしてわたしは幸せな気持ちでいっぱいだ。

「暁人くんの用意してくださるもの、いつも全部美味しいですっ!」

「それは言いすぎだろう」

暁人くんはいつものように少し呆れた顔をしている。
横には疲れ果てた千里くんと、もぐもぐとお菓子を頬張る平士くん。

「そんな事ないです!この桜餅なんて絶品ですっ!
わたしもこれくらい凄いの作れるようになりたいです!」

駆くんに食べさせてあげたいな。
多分、顔に出ていたのかもしれない。暁人くんがくすりと笑った。

「なんなら教えてやろうか?作り方」

「え、いいんですか?」

「ああ、お前はちゃんと取り組む奴だからな」

「俺も手伝おうか?」

「いや、お前は黙って食うだけにしろ」

平士くんが挙手したのを暁人くんが黙らせる。
それから台所に暁人くんと二人で立った。
材料がまだ残っていたらしく、暁人くんは手早くそれを用意してくれた。
わたしはメモを片手に一生懸命説明を聞いた。

「そうだ、あんこはそうやって丸めるんだ」

「はい!」

あんこをいくつか丸め終わることにもち米が炊き上がった。
桃色に色づいたお米がキラキラ輝いて見えた。

「なんだか宝石みたいで綺麗です!」

「米が宝石って、お前」

暁人くんが笑うと私もつられて笑った。
それからも暁人くんが一生懸命教えてくれたおかげで桜餅が完成した。

「出来ました!暁人くん、出来ました!」

「おう、良かったじゃないか」

「暁人くんが作ってくれたものに比べたら不恰好ですけど・・・」

「それでも初めてでこれだけ出来ればたいしたものだろ」

暁人くんの桜餅はお店で売っていてもおかしくないように見えるけど、
わたしが作ったものは少しいびつだ。
だけど、暁人くんのおかげで形になった。

「ありがとうございます、暁人くん。
おうちでも練習して駆くんに食べてもらいます!」

「呼んだ?こはる」

後ろから駆くんの声がした。
驚いて振り返れば、やっぱり駆くんがいた。

「駆くんっ!」

「どうしたの?こはる
暁人に何か習ってたの?」

今更隠すのは難しいので、わたしは素直に話すことにした。

「暁人くんが作ってくれた桜餅がとっても美味しかったので作り方を教わっていたんです!」

「へぇ、そうなんだ」

笑顔でちらりと暁人くんを見る駆くんに暁人くんは苦笑いだ。

「別にやましいことはしてねぇからな」

「うん、分かっているよ。だって暁人だからね」

「・・・」

微妙な空気が流れたところで話題を戻そうとわたしは手を合わせた。

「せっかくですから食べませんか?」

「うん、そうだね。いただこうかな」

駆くんのその言葉にわたしは嬉しくなる。
お盆に作ったばかりの桜餅とお茶を載せて持っていくと駆くんだけにこにこしていた。

「お待たせしました!どうぞ、駆くん」

「ありがとう、こはる」

まずは一番最初に駆くんに渡すと笑顔で受け取って、一口食べてくれた。

「みなさんもどうぞ!」

「お、ありがとう!こはる!」

平士くん、千里くんにも差し出すと二人とも口に運んでくれる。

「お、うまいじゃん!」

「うん、美味しいよ。こはる」

「良かったです」

その言葉に安心して安堵のため息が漏れる。
千里くんも食べながら、食べかけの桜餅と駆くんを交互に見比べる。

「桜餅って結賀さんみたいですね。
表面おだやかそうに見せておきながら腹は真っ黒で」

「そんな!千里くんっ!」

千里くんの言葉にわたしは黙っていられなかった。
だって・・・

「駆くんのおなかは真っ黒じゃないですよ!
綺麗なおなかをしていますっ!」

・・・・

みんなが呆然としていた。
あれ、何か間違えたんだろうか。

「はははっ」

気付けば駆くんが笑っていた。

「こはる、そういう意味じゃないんだよ。
かばってくれてありがとう」

「いえ、そんな。
でもそういう意味じゃないって?」

「うん?こはるは知らなくていいんだよ。
ねぇ、千里?」

「ひぇぇぇ」

駆くんににっこり微笑まれると千里くんは怯えて平士くんの後ろに隠れてしまった。

 

 

 

 

 

駆くんと家に戻る道。
手を繋いで歩くこの時間がとっても好き。

「次は今日よりもっと美味しい桜餅作りますね」

「うん、楽しみにしてるよ」

「はい!」

それから駆くんは優しく笑い

「それより今日、俺のおなか黒くなっていないか確認してもらおうかな」

「え、でも昨日見たときは綺麗な・・・」

「暗いなかじゃ分からなかったのかもよ?」

その言葉で昨夜のことを思い出して、あっという間に顔が熱くなる。

「か・・・駆くんっ」

「何想像したのかな?こはる」

「うぅ・・・駆くん意地悪です・・・」

「意地悪な俺は嫌い?」

試すようにわたしの顔を覗きこんだ駆くんに嘘なんてつけない。

「・・・好きです、大好きです」

思いを吐露すると、今度は駆くんが赤くなった。

「うん・・・俺もこはるが好きだよ」

繋いだ手を強く握り合い、わたしたちはわたしたちの家へと戻るのだった。

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