空疎様は外にでる事も好きなようで、宮の中にいるのかと探してもいない事が多い。
今日も空疎様を探して、歩き回っていると空疎様は外に出たと教えられる。
空疎様のお気に入りの場所はいくつかある。
その一つがここ、河川敷。
今日もやはり河川敷にいた。
「空疎様」
「ん?ああ、詞紀か」
空疎様の傍まで近づいて声をかける。
振り返った空疎様は穏やかな表情をしていた。
「どうかされたんですか?」
「ああ・・・いや」
「何か嬉しいことがあったんですか?」
「・・・なぜそう思う?」
「だって空疎様、なんだか嬉しそうですから」
少し驚いた顔をした後、さっきと同じように穏やかな表情になる。
「さすが我が妻だな。
貴様に隠し事は出来ぬようだな、我は」
「ふふ、そうですよ」
「実はな、宮にある一つの木にツバメの巣が出来ていたのだ。
そこで今朝、雛が孵化したのを見て嬉しく思っていたわけだ」
八咫烏だからなのだろう。
空疎様は鳥をとても大事に思っていらっしゃる。
それが微笑ましい。
嬉しそうに笑う空疎様を見ていて、私もつられて笑顔になる。
「それはぜひ私も見たいです」
「そうか、なら宮へ戻るか」
「はい」
空疎様の腕に手を回すと、空疎様はちらりと私を見た。
「どうかしました?」
「ん、何だ。その・・・貴様もそうやって我に甘えるようになったのだな、と」
「だって空疎様は私の旦那様ですから」
二人で歩くとき、こうして甘えていいのだと教えてくれたのは空疎様だ。
妻を守るのは夫の役目だと私を慰めてくれたのも彼だ。
愛おしい私の旦那様。
「見ろ、詞紀」
空疎様が空を指差す。
そこには仲良さそうにつがいで飛ぶツバメの姿があった。
「もしかして宮にいるツバメの親ですか?」
「さあ、どうだろうな」
「空疎様には分かるんですよね?」
「どちらだと思う?」
私を試すように意地悪く笑う空疎様のことも、私は愛している。
「分かっていると思うことにします」
にっこり笑うと空疎様は笑い出した。
「はははっ!さすが我が妻だ」
「そんなに笑わなくても良いじゃないですか」
少し恥ずかしくなり、私はむっとする。
「いや、そんな貴様を我は愛してるぞ」
どっちもどっちなのかもしれない。
結局、私もどんな空疎様でも愛していると思うんだから。
空を楽しそうに飛ぶつがいを私たちは静かに見つめた。