その手(ヴィルラン)

「ヴィルヘルム、髪!」

「んー?面倒だから良いって。
放っておけば乾くだろ」

「風邪ひいたら困るでしょ?
早く座って」

俺が風呂から上がるとランが乾いたタオルを持ってやってくる。
ガシガシと拭いた頭は俺としてはそれでおしまいで構わないんだけど、ランはそれが嫌らしく俺の髪を拭こうとする。
椅子に座ると、後ろから丁寧に頭を拭かれる。
ラン以外の奴にそういう事されたことがないから分からないけど、ランにやってもらうのは気持ち良い。
目を閉じてる間にあっという間に終わってしまうのが少し残念だ。

「それじゃあ、私もお風呂入ってくるね」

「おー」

ランの風呂は俺が入浴する時間の倍以上かかる。
何に時間がかかっているのか、以前一緒に風呂に入ってみたけど何をするにもゆっくりなんだな、という事が分かった。
湯につかるのも凄く長い。
俺は長く風呂に入るのが苦手だけど、ランと一緒に入った時はそれに付き合った結果のぼせた。
だからあんまり頻繁には一緒に入れない。

ベッドで寝転びながらランが上がるのを待つ。
待っているつもりだったのに、気付けば俺は眠っていた。

 

 

 

 

 

 

「ん・・・」

目を覚ますと俺の隣でランも眠っていた。
ランの髪に触れるとそれはすっかり乾いていたのであれから大分時間が経ったということは分かった。
そっと撫でるとサラサラと絹のような髪が指の隙間からすり落ちる。
それから自分の髪に触れてみるが、ランの髪とは全然違った。
これが男と女の違いなんだろうか。
ただいつも寝る前に丁寧に髪に櫛を通すことを習慣にしているからそのおかげなのだろうか。
以前、どうしてそんな風に手入れするのか聞いた時、ランはこう言った。

『だってヴィルヘルムが触れた時、綺麗な方が良いでしょ?』

女というものはよく分からない。
だけど、ランが言うとおり触れた時、なめらかな髪は心地よい。
眠るランの頭を優しく撫で続ける。

「・・・ヴィルヘルム?」

「悪い、起こしたか?」

「ううん、大丈夫」

眠いのだろう。目がとろんとしている。
前髪をかきあげ、額に口付ける。

「おやすみ、ラン」

「うん、おやすみなさい」

撫で続けた手をランの身体に回して抱き寄せる。
なんていうんだっけ、こういうの。
そうだ、幸せだ。

 

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