愛は奪うものではなく9(ヴィル→ラン←ニケ)

失って分かったことがある

 

私は彼のことを好きだったということ-

 

 

 

 

愛は奪うものではなく

 

 

 

 

ヴィルヘルムが消えて、数ヶ月経った。
私の身体から魔剣は消えた。
普通の女の子に戻ったんだ、と思うと安心したくせにもう呼びかけても返事をしてくれない彼を探してしまう。
だけどそれももうおしまいだ。

 

 

 

「ラン、どうかした?」

「ううん、なんでもない」

ニケが薬草を煎じる姿を黙って見つめていることが好きだ。
ニケの真剣な表情も見ていて飽きないし、薬草を煎じるのって料理に似ていて楽しい。

「・・・ニケ」

「ん?なに?」

ニケの手に自分の手を重ねる。
綺麗な顔立ちをしていてもやっぱりニケは男の人なんだな、と手の平で実感する。

「ニケ・・・私、ヴィルヘルムの事が好きだったの」

傍にいた頃は分からなかった。
ヴィルヘルムの事が好きだった。
彼が自分の残った僅かな時間を私のために使ってくれたということを彼が消えてからメフィストに聞いた。
魔剣の力もほとんど残っていない状態で無理やり自分を実体化していたから彼は消えたのだと。
ヴィルヘルムは私には何も出来なかったと言っていた。
だけどそれは違うと思う。
ヴィルヘルムが私に抱いていた感情が恋だったのか分からない。
だけど私は彼から愛されていた。
僅かな時間だったけど、彼は私を愛してくれていた。
それに気付いた時、私は前に進もうと思えた

「うん、知ってるよ」

「ヴィルヘルムはね、私には何もしてやれないって言ってたけど・・・
彼は教えてくれた。愛することと赦すことを」

「・・・うん」

「だから私は前に進みたいって思えたの、ニケと」

「ラン・・・?」

ニケが何かを抱えているのは薄々感じていた。
だけど、何を抱えていたって構わない。
私も一緒に向き合っていこうって思えた。

「ニケは私に優しくしてくれた。苦しいとき、悲しいとき、何にも聞かずにただ優しくしてくれた。
私にとってそれがどれだけ救いだったか・・・
もしそれがなかったら私は正気じゃいられなかったかもしれない」

ニケの隣は落ち着いた。
ココロが安らいだ。
たとえ、どんな罪を抱えていたとしても・・・
私は構わない

「ラン、僕は・・・」

ぐっと引き寄せられ、ニケの腕の中に収まる。

「君を好きでいていいの?」

「これでニケに嫌われたら悲しいわ」

「・・・ラン」

ニケの瞳から涙が零れた。
私はいつかヴィルヘルムがしてくれたようにその涙を拭う。

「これからも私の隣にいて、ニケ」

「君が望む限り、ずっとずっといるよ」

ニケは優しく私を抱きしめてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

ねぇ、ヴィルヘルム
私はあなたに出会えて良かったと心の底から思ってる。
あなたが教えてくれた愛を、私も誰かに伝えて生きていきたい。
どこからか、笛の音が聞こえた気がして私は自然と微笑んでいた。

さようなら、私のはつこいの人

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