愛は奪うものではなく8(ヴィル→ラン←ニケ)

彼女が穏やかに笑うようになった。
少しずつ、彼女の心の闇は浄化されていっているんだろう
その笑顔を僕はただ見つめることしか出来ない

「おい」

彼女の小さな騎士が僕を呼びとめた。
いつもなら獣じみた威圧感を出して僕を睨みつけるくせに今日はそれを感じさせない

「お前、あいつになんか言ったのか?」

「奪うって誓ったよ」

先日のやりとり。
彼女に僕の想いが届くかは分からない。
この汚れた手で彼女を抱きしめることは罪だと想っていたけれど・・・
それでも彼女を諦めたくないという気持ちに嘘はない

「そっか」

ヴィルヘルムは僕の言葉を聞くと嬉しそうに笑った。

「いいんじゃねーの?それで」

「・・・君は」

「あいつのこと、よろしくな」

初めて見た彼の笑顔はひどく寂しそうだった。

 

 

 

 

 

愛は奪うものではなく

 

 

 

もしも同じ時代に生まれていたらどうなっていたんだろう
きっと出会う事もなかったんじゃないか
そう考えると俺は魔剣の中で過ごした長い歳月はお前と出会う為にあったんじゃないかって思える

「ラン」

「なに?ヴィルヘルム」

寮の部屋。
大人の姿のときは俺が抱きしめて眠りについていたのに、今の身体は十分に抱きしめてやれない。
抱き合うというよりは寄りそうようにして眠る。
それが今の俺たちだった。

「ラン・・・ラン・・・」

何度も名前を繰り返す。
もう二度と呼ぶことはないから刻み付けるように何度も呼ぶ。
それからぎゅっと抱きしめる。
きつくきつく抱きしめる。
二度と離れないというように。
離れたくない、と言葉に出来ない俺が出来るのはこれだけ。

「ヴィルヘルム?」

お前に名前を呼ばれるのが好きだ。
お前が消えかかった俺の残りの時間を輝かせてくれた。
お前にとって良いことなんてほとんどなかっただろうけれど。
俺はお前が名前を呼んでくれたから・・・
お前の為に残りの時間使ってもいいかなって思った。
本当は気付いていたんだ、お前の為なんかじゃなくて自分自身の為だということに。

「俺はお前から奪うばかりで何もしてやれなかったな」

「どうしたの、ヴィルヘルム」

まばゆい光が俺を包む。

「・・・お別れだな、ラン」

ランに向かって笑う。
もう限界だ。
自分では予想していたより持った方だと思うんだけどどうだろうか
でも時が経つにつれて俺はもっと一緒にいたいと思うようになっていた。
馬鹿だよな、終わりはすぐそこにあったのに。

「なんで?やだ・・・やだよ、ヴィルヘルム」

ランは駄々っ子のように嫌だと口にする。
頬に伝う涙を手で拭ってやる。

「泣き止ませたくて出てきたのにな」

こんなに泣かせたら意味ないな、と笑ってやる。
でも、俺が消えればお前は普通の女に戻れる。

だからもう泣くな-

額にそっと口付ける

「じゃあな、ラン。
幸せになれよ」

「ヴィルヘルム・・・っ!」

俺を引きとめようと伸ばした手はすり抜け、空を切る。

 

「ヴィルヘルム!!」

お前が泣きそうな声で呼ぶのが苦しかったけど嬉しかった
そうしたらお前が笑う顔を見たくなったんだ
だから会いたくなったんだ
泣き止ませたかったのに結局また泣かせてしまった
でも、どうかひとつだけ・・・ひとつだけ願いが叶うとしたら

ラン-
お前が笑っていられますように

何もしてやれなかった俺が願うたった一つのこと

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