愛は奪うものではなく4(ヴィル→ラン←ニケ)

泣き喚いて、縋っても彼は何も言わなかった。
何も言わないで私を強く抱きしめた。
その熱で私を溶かしてしまえばいいのに
そんなくだらない事を願っていたら、私は悪夢を見ることもなく朝を迎えた。
魔剣を宿して初めて穏やかな気持ちで迎えた朝だった。

 

「ヴィルヘルム・・・おはよう」

 

 

これは恋なんかじゃないと分かっている。
依存だ。
ただ、私は彼に依存していた。

 

 

 

愛は奪うものではなく

 

 

 

右手に深手を負ってしまった。
医務室?かなんかの場所を聞いて手当てをしてもらう。
場所を案内してもらったけど、そこには誰もいなかったので仕方がないから案内をしてくれたアサカとかいう奴に治療してもらった。

「それにしても深く切ったね」

「ああ」

「くっつくまで時間かかるんじゃないかな」

「ああ」

「魔剣でもこんな風に怪我するんだね」

「そうだな」

「・・・君は人間なの?」

「さあな」

そんなの俺が聞きたいくらいだ。
じくじくと痛む手が俺が生きていると訴えているみたいだった。誰に訴えているんだろう。
神様に?それとも俺自身に?

「さんきゅ」

手当ての礼を告げてランを探す。
他の連中と楽しそうに笑っている姿を見て、どこか安心している自分がいた。
遠くからランが笑うのをただ黙って見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴィルヘルムはそっちのベッドね」

夜、女子寮に新たに用意された部屋に俺とランはいた。
絶対一人で出歩かないことが俺のこの部屋での寝泊りの条件だそうだ。
どこにも用事なんてないから構わない。

「ああ」

窓側のベッドを促され、俺はそこに寝転がる。
ランが黙っているから俺も黙っていた。

「ヴィルヘルムはどうして・・・」

ぽつりと小さな声。
何事もないように目を向ければ悲しそうな瞳で俺を見下ろしていた。

「どうして、私を」

腕を掴み、そのまま俺の腕の中に収める。

「離して!」

抵抗するランをそのまま強く抱きしめた。
抵抗する声も暴れる腕も段々大人しくなり、嗚咽だけが響く。
どうして、と何度も何度も繰り返すからその度に強く抱きしめた。
お前を傷つけるのは俺の存在だ。
戦いなんか無縁だったお前に剣を握らせたのは俺だ。
俺がお前を、汚した-
それをごめんと謝ることはしない。
申し訳ないなんて思っていないし、後悔だってしていない。
お前が俺をたたき起こしたから、俺はここにいる。
どんどん自分という存在が希薄になっていった俺を必死に呼んだのはお前だ。
お前の悲しみも苦しみも全部、俺のものだ。
お前を他の奴になんか渡さない。
だから俺を死ぬほど憎めばいい。
憎んで憎んで・・・
そうして・・・

 

 

 

「ラン、ラン・・・」

いつの間にか泣きつかれて俺の腕の中で眠ってしまった少女の名前を何度も呼ぶ。
俺をそうして呼び続けてくれたように。
名前を呼ばれるのは久しぶりだったから。
俺はそれに縋った。
お前を離したくない、と。
残りの時間をお前といたいと願ったんだ。

 

 

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