愛は奪うものではなく3(ヴィル→ラン←ニケ)

女なんて嫌いだった。
・・・どうしてだっけ?
嫌いと思う程女に興味を抱いたことはない。
戦場に剣を振り回している方が楽しかったし、煽るように酒を飲み干す方が身体を潤した。
だから俺は今、どんな気持ちでいるのかよく分からないんだ。

「ねぇ、おきて!」

身体を揺さぶる感覚に重い瞼を開ける。

「・・・んだよ、うるせーな」

「あなた、誰?」

ピンク色の髪が視界に映る。
顔を見れば、泣きはらした目元が痛々しい。
そのまま手を伸ばして頬に触れる。

「俺が分かんないのかよ、ばーか」

「・・・え?」

ようやく視線がぶつかる。
お前がうるさいくらい呼ぶから出てきてやったんだよ、ラン

 

 

 

愛は奪うものではなく

 

 

 

 

 

 

「あれが、ヴィルヘルム?」

おそらくニルヴァーナ中の人がどよめいたんではないだろうか。
ピンク色の髪をなびかせる少女の隣に、守るように傍に立つ男がいた。
以前僕を威嚇してきた少年の姿ではなかった。
あれはなんだったんだ?

「あ?俺はこいつと離れねーよ」

「ヴィルヘルム・・・!男子寮と女子寮は別々なの」

「そんなの関係ないだろ、俺が何のために」

「え?」

「いや・・・第一、俺はまだ魔剣なんだよ。
お前と離れるのは無理だからな。暴走してもいいって言うんならいいけどな?」

エリアス教官たちは困ったようにしていたけれど、結局ヴィルヘルムの要望が叶うことになった。
彼女とは、先日のキス以来話をしていない。
会えばぎこちない笑みを向けてくれるが、それが苦しくて僕から避けていた。
苦しそうな彼女を見ていられなかったなんていいわけだ。
ただ僕が欲しくなったからだ。
好きで好きで、同じ場所まで堕ちてきてくれればいいなんて願って僕は彼女を抱き寄せた。
口付けて、あわよくば全て自分のものにしようと思った。
僕は・・・汚れているんだろうか
報告には少し時間が早いが、気分転換もかねて森を散策する。

「おい」

その声は聞きたくないと思っていた。
なんでもないという表情を貼り付け、僕は振り返る。
やはりそこにいるのは獣じみた瞳で僕を見下ろすあの男だった。

「・・・何の用かな」

「もうあいつに関わるな」

前置きなんてせず、彼はそう言う。

「僕が人を殺めるには理由がある。
けれど、君は?君には何かあるの?」

どうして僕だけ責められるんだろうか。
彼女に責められるなら構わない。
僕と同じように血で汚れてるのに、どうして彼女の騎士を気取れるんだろう

「理由なんてねぇよ。
あいつは俺の女だ。あいつの涙だって苦しみだって全部俺のもんだ。
お前のものになんか何一つならない」

魔剣について詳しくは知らないが、永い時の中で彼は数え切れないほどの人を殺めた。
そして、宿主さえも狂わせて行く。
いつか彼女のことも。
そんな事はさせない!
気付けば身体が動いていて、ヴィルヘルムに刃をつきたてようとしていた。

「っ!」

その刃を素手で握る。
下手をすれば指だって落ちるのに彼は握る力を緩めない

「いいか、あの女は俺のもんだ。
誰にも渡さない」

その瞳は狂気じみていて、数多の死線をくぐってきたはずなのに恐れを覚えた。
刃を伝ってポタポタと鮮血が零れ落ちる。
ああ、なんて綺麗な赤なんだろ。
魔剣にもこんな赤い血が流れてるんだ、とどうでもいいことを考えていた。

 

「自分のせいで苦しめてるくせに・・・」

負け犬の遠吠えみたいだなって自分でも思う。
けれど、僕もあいつと同じだ。
彼女の父親を殺したのは僕なんだから。

魔剣が彼女の運命を縛りつけるように、
僕は彼女のココロを縛りつけているんだ

 

それが苦しいはずなのに、彼女を苦しめる要素はあいつだけじゃないという事に安堵している自分がいて嫌悪した。

 

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