愛は奪うものではなく2(ヴィル→ラン←ニケ)

-戦え、戦え

お前はただの道具なんだ、戦う以外道はない!!

まとわりつく腕を振りほどいて私は走る。
どこへ逃げたら終わるの?
どこに行ったら私は助かるの?
分からない分からない!
私はただ・・・!

 

 

 

「いやぁ!!」

「ラン!しっかりして!」

呼吸が乱れて視界はぼやけている。
ユリアナが私を必死に揺さぶっていることに気付いた。
助けを求めるように彼女の手を握ると、力強く握り返してくれる。

「大丈夫だから、大丈夫だから。
ランが怖がるようなこと、何にもないから!」

「ゆりあな・・・っ!」

たまらなくなって私はユリアナに勢いよくしがみついて泣き喚いた。
苦しい、どうしようもなく苦しい。
この身体の中にいる魔剣が私を助けてくれなかったら生きていなかったのに。
それでも、自分に宿るそれがどうしようもなく怖い。

(ヴィルヘルム・・・っ、ヴィルヘルム・・・!)

自分の中にいる彼に呼びかける。
何度呼びかけたって彼は気まぐれにしか応えてくれない。
助けるなら全て助けて。
助けないならいっそ殺して。
そんな酷い言葉しか浮かばない。
お父さんも死んでしまって、お母さんは以前のように笑わなくなって私の中の魔剣を恐れる。
他の人間の興味本位の視線に晒されて、戦うしか道がないといわれ。
どうして?私は普通に生きていたかっただけなのに。
どうして?

 

 

 

愛は奪うものではなく

「ニケ、いる?」

3回ノックをしつつ、中にいるであろう彼に呼びかける。
返事がかえってこないのを不思議に思いドアを開けると、彼は机に突っ伏して眠っていた。

「ニケったら・・・」

暖かいとはいえ、そのままにしてたら風邪をひいてしまうかもしれない。
部屋の隅にあったブランケットを彼の肩にかけると私は近くの椅子に座った。

(睫長いなぁ、ニケ・・・)

ニケの顔は整っていて男の子とは思えないほど綺麗だ。
こないだ、突然ニケに抱きしめられた。
あの後ニケは謝ってくれたから気にしていないけれど、ニケがどういう気持ちでそういうことをしたのかは分からなかった。
でも、私にとってこの場所は他の人の視線に晒されない数少ない落ち着ける場所。
ふぅ、とため息を漏らすと心の中に溜まっていた嫌なことも吐き出されていくようだった。

(ヴィルヘルム・・・ねぇ、ヴィルヘルム)

返事をしてくれない彼に語りかけるのはこれで何度目か。
目を閉じて、彼の姿を思い浮かべる。
きちんと姿を見たのは1度だけ。
あれ以降私の前に姿を現してくれない。
呼びかけにもほとんど応えてくれない。

(嫌われたのかな・・・)

魔剣に好かれたいなんておかしな話だと自分でも思う。
嫌われたくない、という気持ちは確かにある。
でもそれは周囲の人間誰に対してもだ。
ヴィルヘルムがいなくなれば良いのに、と思う気持ちもある。
彼がいるせいで私はこんなに苦しんでいるんだから
八つ当たりだということも分かってる。
彼がいなかったら私は・・・

(おい)

(!!)

(何ため息なんてついてんだよ)

(だって呼んでも応えてくれないから)

(あのなぁ!俺様は久しぶりに目覚めてまだ本調子じゃねーんだよ!
お前の相手ばっかりできねーよ)

(・・・そんな言い方しなくてもいいじゃない)

膝の上で組んでいた手にチカラを入れる。

「だってヴィルヘルムが私をこんな風にしたんじゃない!」

八つ当たりしちゃ駄目。
彼は何にも悪くないもの。
だけど、言葉は溢れる。

「どうして私を助けたの?どうして私を選んだの!?
どうして・・・どうしてお父さんは死んだの!?」

(落ち着け・・・!)

「落ち着けるわけなんてないじゃない!!」

悲鳴じみた声を上げていたと思う。
ニケが私の手を掴んでいた。

「・・・ニっ」

続く言葉はそのまま掻き消えた。
ニケの唇が強く押し当てられ、私は知らず知らずのうちに涙を零していた。
苦しい、助けて、誰か・・・
ニケを押し返そうと彼の胸を強く押すけど、腰を抱かれてびくともしない。
華奢に見えたって、顔立ちがいくら綺麗だからってニケは男の人だ。
そんな当たり前の事をこんなときに気付かされるなんて
唇が離れる頃には涙なんてすっかり止まっていて、私はその場に崩れ落ちるように座った。

「ラン・・・ごめん、ラン。
僕は君が好きなんだ・・・!」

逃がさないとでも言うようにニケは私をきつく抱きしめた。
ニケの体温が苦しい。

「嫌・・・やめて、」

「ラン!」

「やめて!!」

ニケを突き飛ばし、私は部屋を飛び出した。

(ヴィルヘルム・・・!ヴィルヘルム!
どうして助けてくれないの?どうして!?)

乱れた服を正し、私は私の中にいる彼をなじる。
だけど何も応えてはくれない。
結局私は独りなんだ。
止まっていた涙が再び溢れた。
ユリアナが部屋に戻ってきたことも気付かないで私は眠ってしまっていたようだ。
次の日の朝、私は驚くことになる。
だって私の目の前には見知らぬ青年がいたんだから。

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