愛は奪うものではなく(ヴィル→ラン←ニケ)

起きているだけで俺の身体は弱っていく。
あとどれくらいの時間が残されているのか、俺にはわからない。
小さくなった身体を自分で抱きしめる。
暗い冷たい空間。
助けてと叫ぶことを諦めたくせに俺はまだ生きたいと願っている。
こんな場所で死にたくない。
誰にも気づかれずに死ぬなんてごめんだ。
俺は・・・

 

(ヴィルヘルム?起きてる?)

目を閉じて丸まっていた俺の頭に響く声。
やめろ、俺を起こすんじゃねぇ。
お前に反応するだけで俺の命は削られていくんだ。
喉元まで出かかった言葉を俺はなんとか飲み込む。

「なんだよ、うるせーなぁ
俺様は寝てたんだよ!」

不安げな声で俺を呼ぶから・・・
応えてやるしかない。
戦いなんて無縁の世界で生きていた女。
それが俺のせいで魔剣の女として扱われ、戦うことを強要される。
他人の期待に応えようとして泣きそうな声で俺を何度も何度も呼ぶ。
だから俺の残された時間をこいつのために使ってもいい・・・
そんな風に少しずつ思うようになってきたんだ。

 

 

 

 

愛は奪うものではなく

 

 

薬草を煎じている僕の隣で熱心にその様子を見ていたランは気づけば眠っていた。
こういうことは何度かある。その度にランは目を覚ますと申し訳なさそうに謝る。
夜、なかなか寝付けないと言った彼女がとてもか弱い存在に見えた。
普通の何も力を持たなかった女の子が急に魔剣の力を手に入れてしまったのだ。
好奇の目に晒され、戦うことを強要されているのだ。
平静でいられるわけがない。
力を持っているからと言って、戦うことが平気なわけじゃない。

「・・・ん」

「ラン?」

寝言だろうか、彼女の声が聞こえて僕は思わずその寝顔を見つめていた。

「お・・・父さ」

「!!」

心臓をわしづかみにされたような感覚だ。
彼女は今どんな夢を見ているのだろうか。
分からない・・・
目尻から零れた涙に手を伸ばす。

「おい、こいつに触んじゃねぇ」

「!?」

突然、だった。
彼女の傍らに一人の少年が立っていた。
見かけない赤髪の少年。
その容姿は噂で聞いた

「君が・・・魔剣ヴィルヘルム?」

「ああ、そうだよ」

彼女を庇うように立ち、僕をじろりと睨みつける。

「この女に触んじゃねぇ」

「・・・それはどうして?」

彼女は誰のものでもない。
なのに、どうして彼女をこの状況に追い込んだこの少年に指図されなければならないんだろう

「臭いんだよ、お前」

その瞳は憎悪にまみれていて

「お前がランの親父を殺したんだろ」

「・・・っ」

まるで獣のような少年は僕の喉仏を食いちぎろうとするように言葉を発する

「その反応だと図星か」

「・・・何を言ってるのかよく分からないよ」

「お前は俺と同じ人殺しだろ?」

その言葉に視界が真っ赤になる。
煎じていた薬草の鍋を手でなぎ払ってぶちまける。
器具が割れる音が部屋の中に響くと彼女がうっすら目を覚ました。

「人殺しに狂ったお前と一緒にするな」

僕は望んで人を殺す道を選んだんじゃない。
そうしなければ生きていけなかったから。
人を狂わせ、殺すことしか出来ないお前と一緒にするな

「・・・俺は狂ってるよ
だからこいつは渡さねぇ」

まばゆい光に包まれて、彼は僕の前から消えた。

「ニケ?どうかしたの?」

「うっかり器具落として割っちゃった」

まだ目が覚めきっていない彼女は不思議そうに僕を見つめているから、いつもの表情を作って微笑む。
屈んで破片をひとつひとつ拾っていくと、彼女も慌ててそれを手伝おうとする。

「危ないからいいよ」

「それならニケも一緒でしょ?」

僕に向かって優しく微笑む彼女は何も知らない
僕が人殺しだということも、
彼女の中にいる少年が狂っているということも

「きゃっ」

気づいたら彼女の腕を取って、抱き寄せていた。
彼女の肩口に顔を埋める。
甘い香りにくらくらしていく。

「ニケ?」

戸惑う声にはっとして僕は慌てて彼女から身体を引き離した。

「ごめん、ラン!」

彼女の顔を見ることが出来なくて、その視線から逃げるように僕は部屋を飛び出した。

 

喘ぐように呼吸をし、森に逃げ込む。

「彼女に触れるなんて・・・バカみたいじゃないか」

こんな汚れた手で触れていい存在じゃない。
彼に言われなくても分かってる。
目を閉じて、自分の身体をきつく抱きしめる。
どうして僕はこんなに汚れているんだろう
どうして彼女はあんなに綺麗なんだろう

 

僕はただ、彼女が笑ってくれればそれでよかったはずなのに・・・

 

 

to be continued

 

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