季節は巡る。
春が来て、夏が来て・・・秋、冬となり、また春が来る。
それはとても当たり前の事だけど、彼と過ごす季節はまだ同じものが巡ってきていない。
もう何年も一緒にいるような気持ちだったけれど、実際はまだ一年も経っていない。
そんな事についこないだ気付いたのだ。
「どうかしたか?」
今日は森で私が作ってきたランチを食べている。
休日の街は人でごった返している。
たまに街でデートもするのだけれど、「騒々しい場所は苦手だ」とヴィルヘルムが疲れた顔をしてうな垂れるのを見るとあまりそういうデートばかりしたいとは言えない。
それに・・・
ヴィルヘルムといれるならどこでもいいのだ。
毎回森は嫌だけど、それは乙女心を察して欲しい。
「ヴィルヘルムの誕生日っていつなの?」
「誕生日ぃ?」
そういえば聞いた事がなかった。
過去にまつわることはあまり触れない方が良いのかな、と最初の頃は心配していたのだけれど・・・
あまりそういう事を気にしていたら、私達の間には見えない壁が出来てしまうんじゃないかと気付いた。
彼の心を踏み荒らすような真似はしてはいけないけど、過剰に気を遣うのも良くない。
ドキドキしながらヴィルヘルムを見つめていると、彼は首をひねりつつ思案していた。
しばしの沈黙が流れた後・・・
「・・・覚えてない!」
「え?」
「確か夏だったとは思うんだけどよー。
昔過ぎて忘れちまった」
「そう・・・」
そんな気はしていた。
彼は自分のものに執着しない人だから。
誕生日とかそういうものも気にしていない気がした。
そこでふと気付いた。
「もしかして、今何歳かも分からないの?」
「もちろん分かんないな」
きっぱり言われるともうどうしようもない。
そういう男気も彼の魅力だけど。
「じゃあ、いいわ。
私と同い年にしよう」
「いや、それは無理あるだろ」
「いいの、老け込んでる十代ってことにしておくの」
ヴィルヘルムの肩に寄りかかるように頭を預ける。
わざとらしいため息が聞こえた後、優しく私の頭を撫でるヴィルヘルムの手があった。
「だから・・・私の誕生日も、年齢も忘れないで」
祝ってほしいとかそういうのじゃない。
ただ、私が知りたいと思うあなたのそういうものを、あなたも同じように知りたいと思って欲しい。
「ばーか。
お前のことで俺が何か忘れるわけねえだろ」
優しくなで続けるその手が愛おしい。
私は目を閉じて、ヴィルヘルムのぬくもりを感じる。
「うん・・・覚えてて」
私があなたを愛しているということも。
あなたが私を愛しているということも。
こうして、何気ない時間を共に過ごしたという優しい思い出も。
後日、なんとなくシャオレイにヴィルヘルムの誕生日を聞いたらあっさりと彼の誕生日は発覚した。
そのことは、その日が来るまでヴィルヘルムには黙っていようかな。
彼が覚えていられない自分自身のことは私が全部覚えていたいから。