2nd story (ボーアル)

「お待たせ、ボールス!」

「姫王、そんなに走ると危ないよ」

小走りに駆け寄る私を見て、ボールスは心配そうに私を見つめる。

「子供じゃないんだから大丈夫よ!」

「それより・・・私で良かったのかい?
もっとこう・・・面白そうな人と一緒の方が」

ボールスを誘った時も、彼は凄く驚いていた。
私の誘いを断るわけがない、と言いながらも他の人の方が良いのではないかとしきりに言うからそれを全部無視して当日を迎えた。

「いいから、行こう!」

ボールスの腕を取ると、半ば無理やり歩き始めた。

 

 

「わぁ!相変わらずすっごい!」

大勢の人でごった返す街の様子に思わずはしゃいでしまう。

「これは凄い人だね・・・」

ボールスも感心したように周囲を見回していた。

「ボールスはフロリアス、来たことなかったの?」

「いや、警備の関係もあるし来たことはあったけど・・・
改めて見ると本当に凄い人だなぁ・・・」

「ふふ、そっか」

はぐれないように、とボールスの腕に自分の手を絡める。
腕を組んで歩くのは少し恥ずかしいけれど、はぐれないため。
ボールスの表情をこっそりと覗けば少し頬が赤くなっていることに気付いた。
私が腕を組んだから?それとも・・・
考えてたら恥ずかしくなり、私はさっと話題を変えた。

「私、友達のところに行きたいんだけどいいかな?」

「うん、いいよ」

ボールスは快くそう言ってくれて、私は周囲を見渡してエレインを探す。

「あ、あそこにいる!行こう!」

人を避けながらエレインに近づいていくと、彼女も私たちの存在に気付いて大きく手を振ってくれた。

「アルー!」

「エレイン!ケーキ食べに来たよ!」

「どうぞどうぞ!今焼きあがったばかりだから選び放題!」

「ケーキを選ぶってどういう事だい?」

「あ、ボールスは知らない?占いみたいなものなんだけど・・・」

エレインが差し出してくれたケーキを私が先に選ぶ。
ケーキを受け取り、真っ二つに割る。

「あ・・・」

出てきたのは、王冠だった。

「もう王様になってるのに・・・っていったらあれだけど」

「王冠が出ると、何があるんだ?」

「あのですね・・・」

とエレインが占いについてボールスに説明してくれた。
占いでも王冠を引き当てるのは向いているという事なのか、嬉しいような残念なような・・・

「へぇ、面白いねぇ。じゃあ、私も一つ・・・」

ボールスもケーキを選び、それを割ると出てきたのは指輪だった。

「指輪だ・・・!」

「指輪はどういう意味があるの?」

「指輪は1年以内に結婚しますよっていう意味です」

エレインがにこにこと話すと、ボールスは少し驚いた後、穏やかに微笑んだ。

「本当にそうなれば良いのにね。
女の子は指輪が当たって欲しいんじゃないのかな?」

「そりゃそうですよ!女の子にとって結婚は憧れですから!」

エレインが両手を祈るように組んではしゃいだ声を出す。
ふと、胸の奥が苦しくなる。エレインの大事な人は・・・もうこの世にはいない。
あれから一年が経ったが、エレインはまだ次の恋は良いかな、と笑っていた。
いつかエレインが凄く凄く好きな人と結婚できますように・・・と私は願わずにいられなかった。

「それじゃあ、これは君にあげるよ」

手に持っていた指輪をボールスは私の手の平に握らせてくれた。

「・・・っ!」

「君は良いお嫁さんになると思うからね」

「・・・ボールス」

渡された指輪をきゅっと握り締め、私は微笑んだ。

「ありがとう、ボールス。大事にするね」

自分で引かないと意味がないだろうけど、ボールスの気持ちが嬉しい。

それから少しだけエレインと話すと、ケーキを求めてやってくるお客さんで混み始めたのそろそろ移動しようということになった。

「そろそろ行こう!それじゃあエレイン、またね!」

「うん、行ってらっしゃーい」

それから広場へ移動し、ボールスとあちこち見て回った。
普段見かけない料理や小物、色んなもので溢れかえっていてあっという間に時間が過ぎる。
一通り見終わると、私たちは元来た道を戻って城を目指していた。

「楽しい時間ってあっという間だね」

「そうだね。凄く楽しかったよ、ありがとう。姫王」

ボールスはぽんぽんと私の頭をなでる。
そうやって触れられるだけで私はこんなに嬉しいのに。

「ねぇ・・ボールス」

立ち止まり、彼の名を呼ぶ。
ボールスも従うように立ち止まって私を見つめた。

「さっきの・・・私は良いお嫁さんになるって本当?」

「ああ、本当だよ」

「どういうところが?」

「・・・そうだなぁ」

ボールスは考えるようにゆっくりと瞬きをした。

「誰に対しても優しくあるところ。
けれど、芯はぶれずに強くあろうとするところ。
料理も上手だし、いつもにこにこ笑ってくれる。
それが凄く心地よい」

「・・・っ」

想像していなかった褒め言葉を沢山貰い、私は恥ずかしくて逃げたくなる。
でも、伝えたいことがあった。

「・・・そんな私を、あなたのお嫁さんにして」

「え・・・?」

自分でも分かる。
体中に巡る血が沸騰しそうなくらい熱い。
私の言葉を聞いて、ボールスの顔が少しずつ赤く染まっていく。

「いつか・・・でいいの。
私、ボールスのお嫁さんになりたいの・・・!」

「姫王・・・」

腕を掴まれると、そのまま抱き寄せられる。
初めてこんなに近くに感じるボールスの体温に頭がくらくらする。

「・・・私でいいのか?」

「あなたが良いって言ってるの」

服の裾をきゅっと握って彼を見上げる。

「姫王・・・いや、アル・・・」

彼の手が私の頬を優しくなでる。

「私も、あなたを愛している
いつの日か、私をあなたの生涯の伴侶として選んでくれるだろうか」

額にそっと口付けが落ちる。
じわじわと広がる喜びに私は言葉が出ない。

「・・・っ、ん」

嬉しくて、こくりと頷くときつく抱きしめられる。
ボールスってこんな風に抱きしめるんだ。
いつも穏やかに見える彼にも、こんな熱情があるんだ。
それが自分に向いている事が嬉しくて嬉しくて・・・

「ボールス、大好きよ。
やっと伝わった・・・」

彼の胸に頬を押し当て、そう呟くとぐいっと顔を上に向けられて、口付けられた。
目を閉じて、彼の熱を受け入れる。
来年は恋人として、フロリアスに行こうね。
沢山、思い出を紡いでいこうね。
唇が離れたらそう伝えよう。
そんな事を想いながら、彼の背中に腕を回した。

 

 

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