2nd story (メドアル)

「お待たせ、メドラウト!」

「・・・遅い!僕を待たせるなんて」

不機嫌そうに立っているメドラウトに駆け寄る。
約束の時間にちょうどなったくらいなのに、不機嫌になるほど早く来て私を待っていてくれた事が嬉しくて笑みを零してしまう。

「なんだよ、その顔は」

「ううん。早く来てくれてたんだなって嬉しくなっちゃった」

「・・・っ!いいから行くぞ」

恥ずかしさからか、赤くなったのを誤魔化すように私の手を掴むと歩き出した。

 

 

「わぁ!相変わらずすっごい!」

大勢の人でごった返す街の様子に思わずはしゃいでしまう。

「人が多いくらいではしゃぐなよ」

呆れたような声を出すメドラウトに構わず私は祭りの様子を見て胸が高鳴る。
やっぱりフロリアスに来て良かった。

「メドラウトがフロリアス一緒に来てくれるなんて思わなかったからすっごく嬉しい!」

「・・・っ、あんまりはしゃいではぐれるなよ」

繋いだ手をぎゅっと握られると、メドラウトをいつもよりずっと近くに感じて・・・
今更手を繋いでいる事実に胸が高鳴った。
それに気付かれるのが恥ずかしくて、私はさっと話題を切り替えた。

「私、友達のところに行きたいんだけどいいかな?」

「別に構わないけど・・・こんな人混みで見つかるのか?」

「うん、多分大丈夫」

周囲を見渡してエレインを探す。

「あ、あそこにいる!行こう!」

人を避けながらエレインに近づいていくと、彼女も私たちの存在に気付いて大きく手を振ってくれた。

「アルー!」

「エレイン!ケーキ食べに来たよ!」

「どうぞどうぞ!今焼きあがったばかりだから選び放題!」

「・・・ケーキを選ぶってなんだ?」

「あ、メドラウトは知らない?占いみたいなものなんだけど・・・」

エレインが差し出してくれたケーキを私が先に選ぶ。
ケーキを受け取り、真っ二つに割る。

「あ・・・」

出てきたのは、王冠だった。

「もう王様になってるのに・・・っていったらあれだけど」

「それがなんだっていうんだ」

「あのですね・・・」

とエレインが占いについてメドラウトに説明してくれた。
占いでも王冠を引き当てるのは向いているという事なのか、嬉しいような残念なような・・・

「ふぅん・・・仕方ないから僕もやってやるよ」

「うん!せっかくだし!」

興味なさそうに口では言っていたが、ケーキを選ぶときはとても真剣な表情をしていてひっそりと笑いをかみ殺した。
ようやく決めたそれを割ると、中から・・・

「鍵だ・・・!」

「鍵って・・・」

「鍵はあなたに転機が訪れますよって意味です」

エレインがにこにこと話すと、メドラウトは興味なさそうに生返事をした。
それから少しだけエレインと話すと、ケーキを求めてやってくるお客さんで混み始めたのそろそろ移動しようということになった。

「そろそろ行こう!それじゃあエレイン、またね!」

「うん、行ってらっしゃーい」

エレインと分かれた後、当たり前のようにメドラウトは私の手を取った。
はぐれないように、という意味だろうけれど私は頬が赤くなっていないかドキドキしていた。
だって手なんて繋いでいたら、まるで恋人同士みたいだから・・・

 

一通り見終わると、私たちは元来た道を戻って城を目指していた。

「なあ」

まだ多くの人は祭りを楽しんでいるのだろう。
この道に人の姿が全然見えない。

「なに?」

「僕はこんな祭りの占いですら王様に選ばれないんだな」

「・・・メドラウト」

自嘲めいた言葉に私は戸惑う。
そんな気配を察するとメドラウトは私を見て笑った。

「冗談だ。当たれば良いなって思ったのは別のだ」

「別のって?」

繋いでいた手が離され、メドラウトは立ち止まった。
私もそれに従うように立ち止まると、私の髪をそっとすくいあげて、唇を寄せた。

「・・・っ!」

「今、僕が欲しいもの・・・分かるか?」

とくん、とくん・・・と心臓の音がうるさい。
こんなにうるさかったらメドラウトに聞こえてしまうんじゃないかって不安になる。
彼の言葉に私は小さく首を左右に振る。

「お前は愚か者だな」

そのまま私を引き寄せられると、唇に暖かいものが触れた。

「・・・っ!」

メドラウトに口付けされていた。
驚いて、思わず眼を見開いてしまう。
だって信じられないもの。

「メド・・っ」

言葉を紡ごうとするとその度口付けられて何も言えなくなる。
何度も何度も口付けされて、気付けば彼の腕の中で力が抜けそうになっていた。

「僕が今、一番欲しいのはお前だよ」

強く抱きしめられる。
メドラウトの顔が見たくて、彼の拘束を緩めようとするが一層強くなって叶わない。

「・・・顔が見たいの、」

「・・・駄目だ」

「どうして?」

「・・・うるさい」

少しだけ力が緩まったので、身体を少し離して彼を見つめる。
・・・そこには真っ赤になったメドラウトがいた。

「メドラウト・・・」

「勘違いするなよ、好きなわけじゃない。
お前が・・・欲しいだけだ」

それはとっても分かりづらい愛の告白だった。
それがメドラウトらしくて・・・

「うん、私もメドラウトが好き。
あなたが大好きよ」

きゅっと抱きしめると、さっきまで強く抱きしめていたくせに今度はおずおずと抱きしめ返される。

「だから僕は好きじゃ・・・」

「うん、分かってるから」

素直じゃないメドラウトを好きになったんだもの。
今はこれだけで十分。
来年は本当の恋人同士としてフロリアスに来れたらいいな。
私はそんな事を願いながらメドラウトを抱きしめていた。

 

 

 

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