春(真弘×珠紀)

思い切り息を吸い込んで、伸びをする。
春の日差しは心地よい。
草原にひっくり返っていると、影が落ちる。

「ん?なんだ、お前か」

「なんだとはなんですか。
可愛い彼女にむかって失礼ですよ」

瞳を開ければ、俺を覗き込む珠紀の顔があった。
これがスカートだったら・・・いや、せめて制服だったら良かったのに。と邪なことが浮かぶ。
誤魔化すようにあくびをし、俺は起き上がった。

「真弘先輩、こういうところ好きですよね」

「おう、気持ち良いだろ」

「ん、そうですね」

起き上がった俺の隣に珠紀は腰掛ける。
二人でぼんやりと空を見上げる時間も俺は好きだ。
他の連中と集まって、騒ぎ倒すのも楽しい。
だけど、たまにこうして静かな中で自然を感じるのも良い。
運命という呪縛から解放されて、珠紀が隣にいる。
そんな未来、あったんだということを静かにかみ締めていた。

ふと、視線を下におろすと春の訪れを知らせる花が咲いていた。
それを摘むと、珠紀は不思議そうな顔をした。

「どうかしたんですか?」

「ちょっと寄れよ」

肩が触れ合う距離に珠紀が近寄ると、髪を掬うように撫でて、耳にそっとかけてやる。
そして、そこに蒲公英の花を挿してやった。

「お、似合うじゃねえか」

「・・・っ!」

何をされたか理解したらしく、珠紀の頬があっという間に朱に染まった。
その様子を見て、満足げに微笑む。

「なーに赤くなってんだよ」

「だって真弘先輩がらしくない事するから」

 

傍にあった珠紀の手をそっと握る。
そんな些細な事が幸せだなんて、知らなかったよ。

 

「それじゃ、帰りは商店街に寄って焼きそばパンを食べるか!」

「はいっ!」

 

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