「ん・・・」
夜明けに目が覚める。
部屋の中の空気は少しだけひんやりとしていた。
でもそれは冬の厳しい寒さとは違い、眠気がゆっくりと引いていくような心地よい。
隣を見ると、すやすやと眠るインピーと足元で丸くなっているシシィの存在に気付いた。
シシィを撫でるときのようにインピーの頭をそっと撫でる。
気持ち良さそうに眠るインピーを見るのが好き。
しばらくそうして時間を過ごすと、外が明るくなってきた。
うん、そろそろ起きよう。
そっとベッドから抜け出し、一人部屋を出た。
身支度を済まし、キッチンへと一人で立つ。
インピーに習って少しずつ料理も上達してきている・・・と思う
いつもより早く起きたことだし、今日はちょっと気合を入れて作ってみようかな。
食材を選んでいると、見慣れない小瓶の中に綺麗なピンク色の花が入っていた。
「わぁ・・・」
塩漬けにされているのか、萎んでいるが美しい花だったことは分かる。
蓋を開けて見ると、ほのかに甘い香りがして自然と笑顔になった。
これを使って、ドーナツでも作ろうかな。
あとはスクランブルエッグとトマトを沢山使ったサラダ、鳥団子のスープでどうだろうか
自分が作れるものを頭で想像し、作る順序を考える。
よし、これなら大丈夫。
袖をまくって、料理に取り組み始めた。
「おはよう、カルディアちゃん」
いつもより遅い時間にインピーがやってきた。
「おはよう、インピー。
今起こしに行こうと思ってたの」
「あー、せっかくならカルディアちゃんに起こしてもらえばよかった!
朝から幸せすぎたのに!」
「そんなこと残念がらなくてもいつでも起こしてあげるのに」
インピーは私とのやりとり全てを大切にしてくれる。
それはみんなで暮らしていたともそうだったし、こうして二人きりになってからも変わらない。
インピーのそういう優しさがとてもいとおしい。
テーブルに並べた食事を見ると、インピーは目を輝かせた。
「うぉ!すっごい食事!
カルディアちゃん、ありがと!」
「インピーには及ばないけど・・・
いただきましょう?」
二人で向かい合わせに席に着き、お祈りをしてから、インピーと私は食事を始めた。
サンがいなくなってからもこの習慣は抜けなくて、それもみんなと過ごした宝物みたいで良いな、と実は思っている。
「これ、すっごい美味しいよ!カルディアちゃん!」
インピーはあの綺麗な花びらを使ったドーナツを食べて目を輝かせた。
「それ、ピンクのお花の塩漬け使ったの」
「ああ、街で珍しいから買ってみたんだけど正解だったね」
「あれ、なんのお花なのかな。見たことない気がする」
「あれはサクラの花なんだって。
極東の島国でしか咲かない花らしいんだけど、塩漬けにして流通しているんだって」
「ふうん。サクラかぁ・・・」
極東の島国だなんて全然想像つかない。
どんな風に咲いている花なんだろう。
「いつかいってみたいね」
「じゃあ、月に行けたら、次はそこに行こうか。
月よりは全然楽に行けちゃうだろうけど」
「・・・うん!」
インピーの笑顔につられて私も笑う。
小さな約束を積み重ねていく、そんな日々が私は愛おしい。
きっとインピーは私とした約束全て守るし、叶えてくれるだろう。
だから私も彼とする約束全て守りたいし、叶えてあげたい。
二人でそうやって積み重ねて生きたいと笑顔を交わしながら心の内に描く。
サクラのドーナッツを頬張りながらインピーが傍にいる幸せをかみ締める。
今日も幸せな一日が始まる。