2nd story (トリアル)

「お待たせ、トリスタン!」

「いや、大して待っていない」

目を閉じて、壁にもたれるようにして私を待っていたトリスタンは私が駆けて来たことに気付き、珍しく微笑んでくれた。
それだけのことに私はどきっとしてしまう。

「どうかしたか?」

「いえ、なんでも・・・!
さあ、行きましょう!」

照れくさい気持ちを隠すようにトリスタンの腕を取って、私は駆け出した。

 

「わぁ!相変わらずすっごい人!」

大勢の人でごった返す街の様子に思わずはしゃいでしまう。

「姫王の名が聞いて呆れるぞ、お転婆娘」

言葉は少し厳しかったが、トリスタンの表情は相変わらず優しげで冗談で言っているのが伝わってくる。

「だってトリスタンと初めて来たんだもの!
嬉しくて仕方ないわ!」

去年はパーシヴァルと行ったのを思い出す。
それはそれで楽しかったけれど、やはり好きな人と行くのは特別なことだ。

「そんなにはしゃいで・・・俺から離れるなよ」

手を引き寄せられ、恋人のように絡める。
いや、私たちは恋人だから間違っていないのだけれど・・・
なんだろう、今日は些細な事でもすぐドキドキしてしまう。
それに気付かれるのが恥ずかしくて、私はさっと話題を切り替えた。

「私、友達のところに行きたいんだけどいいかな?」

「ああ、構わない」

「ありがとう!」

周囲を見渡してエレインを探す。

「あ、あそこにいる!行こう!」

人を避けながらエレインに近づいていくと、彼女も私たちの存在に気付いて大きく手を振ってくれた。

「アルー!」

「エレイン!ケーキ食べに来たよ!」

「どうぞどうぞ!今焼きあがったばかりだから選び放題!」

「ああ、占いか」

「うん!トリスタンもやろう?」

エレインが差し出してくれたケーキを私が先に選び、その後トリスタンも一つ選んだ。
ケーキを受け取り、真っ二つに割る。

「あ・・・」

出てきたのは、指輪だった。
指輪が出てきたことが嬉しくて私は思わずトリスタンを見つめた。

「指輪だった!どうしよう!」

「どうしようとはなんだ?素直に喜んでおけ」

そう言いながらトリスタンも自分のを割る。
すると、中からは王冠が出てきた。

「トリスタンは王冠だね」

「既に俺には仕えるべき王がいるというのに」

可笑しそうに笑うトリスタンを見て、少しほっとした。
王冠が出て、不機嫌になったらどうしようと思ってしまったから。

「アル、良かったね!指輪だなんて!
王様の次は花嫁さんだね」

エレインがはしゃいだ声を出すと、少し恥ずかしくなって顔をぱたぱたと手で仰ぐ。

「もうからかわないで、占いなんだから・・・」

それから少しだけエレインと話すと、ケーキを求めてやってくるお客さんで混み始めたのそろそろ移動しようということになった。

「そろそろ行こう!それじゃあエレイン、またね!」

「うん、行ってらっしゃーい」

エレインと分かれた後、広場の方へ行って様々な露店を見て回った。
トリスタンが美味しそうだ、というものや私が気になるといったものを二人で食べたりして、
普通のデートのようでとても楽しかった。
一通り見終わると、私たちは元来た道を戻って城を目指していた。

 

「アル」

繋いでいた手がそっと離されると、腰を抱き寄せられる。
ぐっと距離が近くなったことが恥ずかしくて、つい俯いてしまう。

「お前は花嫁になりたいか?」

「え?」

「さっき、指輪が出たとき凄く嬉しそうなカオをして俺を見ただろう」

「・・・っ」

そんな表情をしてたなんて恥ずかしい。
そう、嬉しくてついトリスタンを見てしまったんだけど。

「・・・いつかは好きな人の・・・お嫁さんになりたいっていうのは女の子なら誰もが持つ夢よ」

だけど、私は王だから・・・
そんな甘い夢を見てはいけない
だから言葉を紡ぐ。

「・・・でも、私は王だから」

「・・・以前にも言っただろう」

頬をなでられ、思わず顔を上げると奪うように口付けられた。
荒々しい口付けに私は翻弄されるばかり。
暫くして、解放されたときには息が途切れ途切れだった。

「皆の前では王であれ。
だが、俺の前では俺だけの女でいろ、と」

「・・・っトリスタン」

「いつか、お前を幸せな花嫁にしてやる」

その言葉がどれだけ嬉しいか、トリスタンは分からないかもしれない。
だって、あなたに王として認めてもらいたくて必死に頑張った。
あなたに恋をして、あなたに振り向いて欲しくて頑張ったのだ。
そんなあなたから、どうして私が望む言葉が出てきて泣かないでいられるだろうか。
ぽろぽろと零れる涙をトリスタンの舌が掬ってくれる。

「愛してる、アル」

優しい声色に、私はトリスタンをきつく抱きしめた。

「・・・っ私も、あなたを愛してる・・・っ」

これからもずっとずっと一緒にいられますように。
そんな事を願いながら私はトリスタンの腕の中で幸福の涙を流した。

 

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