「お待たせ、マーリン!」
「やあ、そんなに慌てなくても構わないよ」
小走りに駆け寄る私を見て、マーリンはくすりと笑った。
「それに去年は私が君を待たせたからね。
さあ、行こうかお嬢さん」
差し出された手をそっと握り返すと、私たちは歩き出した。
「わぁ!相変わらずすっごい!」
大勢の人でごった返す街の様子に思わずはしゃいでしまう。
「ほら、周りをちゃんと見ないと危ないよ」
繋いでいる手をぐっと引かれると、マーリンの身体にぶつかる。
じっと彼を見つめると、楽しそうに笑われた。
「マーリン、私で楽しんでる?」
「うーん?そんな事はないんじゃないかな」
「・・・もう」
相変わらず彼に振り回されてしまうけど、楽しそうに笑ってくれるなら今日は許してしまおう。
「あそこにいるのは君のお友達じゃないか」
「あ、本当だ!行こう!」
人を避けながらエレインに近づいていくと、彼女も私たちの存在に気付いて大きく手を振ってくれた。
「アルー!」
「エレイン!ケーキ食べに来たよ!」
「今年もマーリン様、一緒なんだね。
去年はタイミングが悪くて食べれなかった分、今年はよーく選んで!」
エレインが差し出してくれたケーキを二人で選ぶ。
先に私が一つを選び、マーリンは私の取ったすぐ隣のを選んだ。
ケーキを受け取り、真っ二つに割る。
「あ・・・」
出てきたのは、今年も王冠。
「もう王様になってるのに・・・っていったらあれだけど」
「占いなんてそんなものだよ」
マーリンはくすりと笑うと、自分の分を割る。
中から出てきたのは魚だった。
「・・・」
「良かったね!収入増えるって!」
魚は高収入を意味する。
マーリンは魔法使いだから収入がどうとかあるのか分からないけど、悪いものではないので褒めるとマーリンは苦笑いを浮かべた。
「ああ、まぁ・・・良かったのかな」
それからエレインと少し話をし、ケーキを求めるお客さんが増えてきたので私たちはそろそろ移動することにした。
「そろそろ行こうか。それじゃあエレイン、またね!」
「うん、行ってらっしゃーい」
それから街を二人で見て回った。
なんだか普通の恋人同士みたいだなって思うと少し恥ずかしくてとても嬉しかった。
一通り見終わると、私たちは元来た道を戻って城を目指していた。
「さっき、なんであんな表情したの?」
ケーキのなかから魚が出てきたとき。
マーリンは少し残念そうだった。
「なんでって、魚が出るなんて色気がないじゃない」
「・・・もしかして指輪が出て欲しかったの?」
「・・・っ」
マーリンの頬が少し赤くなる。
マーリンが照れるのってあまり見られないから驚きの気持ちと嬉しさが交じり合う。
「ふふ」
「お嬢さんは随分嬉しそうな顔をするんだね」
「だって、マーリンがそんな事思っていたなんて」
意外なんだもの。
マーリンに向かって微笑むと、顎を軽く持ち上げられて次の瞬間、口付けられた。
唇に触れる熱が愛おしくて、私もそっと目を閉じてその存在を確かめるように応える。
「んっ・・・」
唇が離れるのが少し名残惜しい。
そんな私の気持ちを悟ってか、マーリンは優しく微笑むと私の頭をなでてくれた。
「アル、君のためなら私はどんなことでもするよ。
そうだ、去年お友達にしたように花を降らせようか?」
首を左右に振ると、マーリンは小首をかしげる。
「君は花、好きだろう?」
「好きだよ。
だけど、何もしなくていいの。
ただ、ずっと私の傍にいてくれればそれでいいの」
魔法がなくなってしまったとしても私はマーリンが傍にいてくれるだけで幸せになれるから。
壊れ物を扱うようにマーリンが私を抱き寄せるから、きつく抱きしめ返した。
「君を好きになってよかったよ、アル」
耳元で囁かれた言葉がどんな言葉よりも嬉しくて。
マーリンの熱を感じながら、私も同じことを考えていた。