「ミクト・・・?どうかしました?」
訓練が終わり、部屋へ戻るためにエレベーターに乗った瞬間。
僕はフウちゃんを抱きしめていた。
少し戸惑った様子が伺えるけれど、それに構わず彼女の首筋に顔を埋める。
香水とかつけていないはずなのに、フウちゃんからは甘い香りがする。
首筋をきつく吸い上げると、赤い花が散ったような痕が残る。
エレベーターの扉が開くと、フウちゃんの手を掴んで自分の部屋へと引きずり込む。
「ミクト、どうしたんですかって聞いてるんですけど!」
部屋に入ってそのままベッドへ押し倒すと不満そうに彼女は俺を押し返す。
「フウちゃんに触れたくなりました。駄目ですか?」
「・・・、駄目じゃないですけど」
続きの言葉なんて必要ない。
フウちゃんの唇を自分のそれでふさぐ。
逃げる舌を追いかけて絡める。
フウちゃんの全部が欲しい。全部全部、僕のものにしてしまいたい。
彼女の服を脱がしていく。
服のように彼女の心も何もかも剥ぎ取れればいいのに、なんて考えてしまう。
他の奴が彼女をいやらしい目で見るなんて耐えられない。
彼女は僕だけのものだ。
こうやってキスするのも、彼女の身体に触れるのも僕だけだ。
「-っはぁ」
唇を離すと潤んだ瞳でフウちゃんが僕を見つめていた。
「フウちゃん、可愛い」
目じりに口付けるとフウちゃんは僕を抱きしめてきた。
肌が触れ合う感覚に、心がざわつく。
何もかも自分のものにしてしまいたい。
身体も心も、僕が知らない部分があるなんていやだ。
でも、そんな事は無理だって分かってるくせに僕は子供のように駄々をこねる。
「ミクト、私はミクトが好きです、大好きです」
「・・・フウちゃん、」
「不安になったときはこうして抱きしめます。
だからちゃんと伝えてください」
突然のことにきっと怖かっただろうに。
フウちゃんは自分のことよりも僕を大事にしてくれる。
「フウちゃん、ごめんなさい。
ちょっとヤキモチ妬きました」
「ヤキモチ?」
「・・・ユンくんがさっき、フウちゃんの髪に触れたのが」
「ああ」
その場でも猛抗議したけれど、それでもフウちゃんに触れられたことが嫌で嫌でたまらなかった。
「ごめんなさい、今度から気をつけます」
「ありがとう・・・フウちゃん」
ぎゅっと抱きしめ返して、そっと口付ける。
さっきのような全てを奪うような荒々しいものではなくて、愛情をこめた優しい口付け。
「フウちゃん・・・もっとフウちゃんを感じたい」
額をあわせて彼女を見下ろすと、一気に頬が赤らんだ。
「・・・私も、ミクトを感じたい・・・です」
恥ずかしそうに笑うフウちゃんが愛おしくて、もう一度口付けた。
フウちゃん、フウちゃん・・・
フウちゃんは僕だけのもの。
僕はフウちゃんだけのもの。
絡めた指に、触れる身体、全て溶け合ってしまえばいい。
そんな事を願いながら僕たちはきつく抱き合った。
Heaven’s様 「抱きしめたくなる10のお題 」