一ヶ月前の出来事だ。
ランからチョコレートを貰った。
それはばれんたいんでーというもので、女が好きな相手にチョコレートを贈るという日らしい。
それのお返しをする日が存在することを俺は突然ユリアナに捕まって懇切丁寧に教えられた。
「お返し・・・なぁ」
どういうものなのか、ユリアナに叩き込まれたおかげで俺は一人街をうろついていた。
何を贈れば良いのか、それをひたすら考えているんだけど何をあげてもランは喜びそうだしなぁ
だけど、その中からより一層喜んでもらえるものを渡したいと思うのは当然だろう
「あれ、ヴィルヘルムじゃん」
「おう」
サモサの入った袋を抱えたパシュとばったり出会う。
こいつは本当、サモサばっかり食べてるよなぁ・・・
「どうしたんだ?珍しく難しい顔して歩いてたけど」
「珍しくは余計だ。
ちょっとランに贈るもんを探してたんだよ」
「贈り物っていうとホワイトデーにか?」
「ああ、そうだけど」
思い切り息を吸い込んで、それを倍以上のため息にしてパシュは吐き出した。
「彼女持ちは良いよなぁ~・・・」
「え?なんだって?」
「いや、なんでもない。
で、何買うか決めたのか?」
「いや、全然。
バレンタインにチョコもらったんだから、それ相応のものをホワイトデーには返すのが義務だってユリアナに言われたんだけどよ」
「ホワイトデーって確か、キャンディーとかマシュマロとか、そういうもんをあげるんじゃなかったっけ?」
「ふぅん」
キャンディーかぁ
パシュから得た情報を元に俺はキャンディーを探す。
キャンディーってあれだろ?飴玉だよな?
再び贈り物を求めて、俺は街をさ迷った。
「ラン」
回廊を歩いていると、後ろから腕を引っ張られて振り返らされる。
そこにはヴィルヘルムがいた。
「どうしたの?慌てて」
「ちょっと、いいか」
「?うん」
腕を掴んでいた手が、気付けば私の手を掴んでいた。
要は手をつないでる状態で・・・
周囲には他の生徒もいるし、少し恥ずかしいけれど真剣な顔をしたヴィルヘルムに圧倒されて私はそのままついていった。
「ここなら良いか」
着いた場所はルナリアの木の下。
ヴィルヘルムは繋いでいた手を離すと、私と向き直る。
「これ、やる」
繋いでいた手ではないほうには紙袋がぶら下がっていて、それを私の前にずいっと差し出した。
「ありがとう・・・どうしたの?急に」
「今日は・・・あれだろ、ほわいとでー」
「・・・あ」
バレンタインにチョコレートを贈って満足していて、すっかり忘れていた。
意識したところでヴィルヘルムがそういうの知ってるわけないって思ってたから驚きすぎて言葉が続かない。
「なんだよ・・・その顔」
照れを隠すために私をじろりと睨みつけてくる。
そういう表情も新鮮で、嬉しさがようやくじわじわと身体に行き渡っていく。
「嬉しい!ありがとう、ヴィルヘルム!
あけてもいい?」
「おう」
許可を得て袋を開けると、そこには数え切れないほどのキャンディーが入っていた。
一つ取り出し、口に放り込むと口内にいちご味が広がる。
「美味しい、ありがとう」
安心したようにヴィルヘルムは微笑んだ。
「ヴィルヘルムも食べる?」
「ん、食う」
「ちょっと待ってね」
袋の中からもう一つ飴を取り出し、顔を上げるとヴィルヘルムの顔が至近距離にあった。
驚いて一歩下がりそうになったが、腰に手を回されて逆に引き寄せられるとそのまま唇が重なった。
唇の隙間から舌が入り込んでくると、私の口内にあるキャンディーをするっと奪っていった。
「・・・もう、」
「ん、美味いな」
今度は私が恥ずかしさから彼を睨む。
まるで子供が悪戯が成功した時のような表情だ。
渡すはずだったキャンディーを口に放り込む。
「ありがとう、ヴィルヘルム」
小さな声で言ったその言葉は多分、彼の耳に届いてないだろう。
けれど、こんなに美味しいキャンディーは生まれて初めてだ。
彼の手をそっと握ると私は幸せをかみ締めるように微笑んだ。