幸福の積み重ね(孫関)

曹操との戦いが終わり、数ヶ月が経った。
私は、孫権様の妻として満州の地にいる。
戦が終わっても、孫権様はこの国の君主だ。
忙しく公務に追われている姿を私は見つめるしかない。
戦では力になる自信はあるのだけど、政治などには到底役立つ事が出来ない。
たまにお茶を入れて、差し入れるくらいしか私には出来ない。

 

 

「お義姉様、どうかされましたか?」

気付けば、尚香様が私の顔を覗きこんでいた。
こんなに近くの来られるまで気付かなかったことに自分でも驚いた。

「尚香様!」

「なんだか最近ぼーっとしていることが多いから心配で・・・
お兄様と喧嘩でもしましたか?」

「喧嘩だなんて、そんな!
孫権様はとても良くしてくださってます」

いつだって優しい。
最初は何を考えているか分からなかったけれど、あの人の僅かな表情の動きにも最近は気付くことが出来るようになった。
そうやって毎日、少しずつ距離が縮まっていく事に幸福を覚えている。
けれど、

「お兄様、最近忙しいですものね。
あんまり一緒に過ごせないですよねー」

「・・・ええ」

距離が縮まっていく度に幸福なのに、会えない時間が胸を締め付ける。
孫権様との僅かな時間が私にとっては宝物になっていった。
いつの間に、彼をそんなに愛したのだろう。

「一緒に過ごす時間がないなら良い方法があります!」

尚香様は名案を閃いた!とばかりに満面の笑みを私に向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「尚香様、それはあまりにも突然では」

「大丈夫です!色々なことは私が手を回しておきましたからご安心を!」

ぐいぐい!と背中を無理やり押して、私を部屋の中へと押し込んだ。

「それじゃあ、良い夜を!」

「尚香様・・・っ!」

扉はぴしゃり、と閉まった。
どうしよう・・・でも、部屋を見回せば私の部屋にあったものも運ばれていた。
そう・・・尚香様はこう言い出したのだ。
『一緒に過ごす時間が取れないなら一緒のお部屋にしてしまえば良いんですわ!
だって二人は夫婦なんですもの!』

それからの行動はとてつもなく早かった。
私の返事なんて聞かずに、あれよあれよという間に私の部屋のものは移動させられ、
私自身もこうして孫権様の部屋へと押し込まれた。
孫権様になんて言えば良いのかしら。
あわあわしていると、扉が開いた。

「関羽、どうしたんだ?」

そこには孫権様がいた。
私がいるだなんて思っていなかったのだろう。
私の姿を見て、いつも崩れない表情が驚きを示した。

「それが、その・・・」

かいつまんで話を伝えると、孫権様は頷いた。

「あなたが、私と同じ部屋で構わないのならこのままでも良い」

「え?」

「あなたは、私と共に寝るのは嫌か?」

その聞き方はずるい。
孫権様と一緒にいたい。
そんな気持ちを叶えるために尚香様がしてくれたのだ。
嫌なわけがない。

「・・・一緒にいたいです」

「そうか、私もだ」

私の手をそっと握ってくれた孫権様の手が暖かい。

 

 

 

 

それから寝支度を済ませ、一緒の寝台へともぐりこむ。

「関羽、もう少し傍へ」

「・・・はい」

初めて孫権様のこんな姿を見て、私の心臓は馬鹿みたいにドキドキしている。
あまり近くにいったら孫権様に気付かれてしまうのではないか。
肩を抱き寄せられ、身体が触れ合う。
触れている部分が熱い
ちらり、と孫権様の顔を見上げると、孫権様も私を見つめていて視線がぶつかる。

「すまない。あなたとこうして共に眠れることが嬉しくて、ついつい見つめてしまった」

「孫権様・・・私も嬉しいです」

そのまま孫権様の手は私の髪に触れる。優しく何度も何度も撫でられる。
それが心地よくて、私は瞳を閉じた。

「おやすみなさい、孫権様」

「おやすみ、関羽」

世界には、私と孫権様しかいないような静かな夜だった。
好きな人の腕に包まれて眠ることがこんなに幸福を与えてくれるだなんて私は知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで昨夜はどうでした?」

尚香様にお茶に誘われ、二人で茶菓子を食べながらお茶を飲んでいた。
一息つくと、尚香様は身を乗り出して私に尋ねてくる。
その瞳は気のせいだろうか、凄く輝いて見える

「ええと・・・幸せでした」

「きゃー!それじゃあお兄様とついに結ばれたんですね!!
お祝いしないと!」

「ち、違います!!一緒に眠っただけです!それ以上のことはなにも!」

一瞬何を言われたのか理解できなかったが、意味に気付いた瞬間私は真っ赤になってそれを否定した。

「お兄様ったら意気地なしなんだから!」

「尚香様・・・」

「でも、良かったです。
お義姉様が少しでも元気になってくれたなら」

「ありがとうございます、尚香様のおかげです」

「だってあの鈍感なお兄様の奥様でもあるけれど、私のお義姉様でもあるんですもの」

尚香様はにっこり笑った。
ああ、心配してくれてたんだなぁ
そう思うとその気持ちが嬉しくて、私も笑顔になった。

「次は夜這いですね、お義姉様!」

頑張りましょう!と私の手を握る尚香様の瞳は輝いていた。
尚香様の閃きがしばらく起きないことを私は密かに願った。

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