「おー、様になってんじゃん」
部屋に入ってきた声に振り返るとヴィルヘルムがそこにはいた。
「ヴィルヘルム・・・」
衣装合わせのときも見たけれど、ヴィルヘルムのタキシード姿はびっくりするほどかっこよかった。
「様になってるって、褒めてるの?」
「ああ、褒めてるよ」
肩をそっと引き寄せられ、そのまま唇を重ねようとするヴィルヘルムの肩を慌てて押し返す。
「駄目よ!もうお化粧してるんだから・・・」
普段、お化粧をしていない私の唇はピンク色に色づいている。
それが崩れてしまうには、まだ早い。
「ちょっとくらい・・・」
「だめ!」
「なら・・・」
額にかかる髪をそっとよけると、ヴィルヘルムはそこに口付けを落とした。
珍しい行為に私は顔が熱くなる。
ヴィルヘルムをじっと見つめていると、彼は優しく微笑んだ。
「すっげー綺麗だ、ラン」
「・・・っヴィルヘルム」
ああ、思い切り抱きつきたい。
だけど、式の前にそんな事したらせっかくの衣装が・・・
そう思いながらも、やっぱり我慢できなくて私はヴィルヘルムに抱きついていた。
「私、凄く幸せだよ」
「まだ式始まってないぞ?」
「うん、でも・・・すっごい幸せ!」
「ああ」
ヴィルヘルムの腕が私の腰に回された。
「俺も幸せだ」
少し早く、私たちは誓いの口付けを交わした。
「ラン、おめでとう!」
「ありがとう、ユリアナ」
式が終わると、緑の滴亭を貸しきって祝いの席を設けてもらった。
中に入ると、ユリアナが駆け寄ってきて私に飛びついた。
「すっごい綺麗だったよ!ラン!」
「えへへ、ありがとう」
私のブーケはユリアナの元へと届いて、本当に良かった。
それも嬉しくて、私は笑みをこぼした。
ヴィルヘルムといえば、ラスティンやアサカたちに囲まれていた。
嬉しそうに笑うヴィルヘルムを見て、私は安心する。
「私ね、」
誰かに話したくなった。
彼を想う気持ちの片鱗を。
「ヴィルヘルムの家族になりたかったの。
あの人に家族のぬくもりを教えてあげたいって」
「うん」
「この世界で一番好きな人のお嫁さんになれたことも凄く嬉しいんだけど、
世界で一番好きな人にぬくもりを教えてあげられるのが私だって言うのが凄く凄く嬉しいの。
なんかこんな言い方をするの偉そうなんだけど」
「そんな事ないよ、ラン」
ユリアナは私の手をそっと握った。
「ヴィルヘルムが現れてから、二人をずっと見てきたけどヴィルヘルムを変えたのはランだよ。
あんな風に人に囲まれて笑うようになったのは、ランが傍にいたからだよ」
ユリアナの言葉に初めて出会った日のことから思い返す。
私の前世が、ヴィルヘルムと縁があったことも私たちが惹かれあったことに関係あるかもしれない。
それでも、私がヴィルヘルムと築いてきた現在があるから・・・
私たちはこうして生涯を共に生きていこうと決めることが出来た。
「おめでとう、ラン」
「・・・ユリアナ」
嬉しくて出る涙って、幸せなことだ。
ユリアナもつられて涙ぐんでいたから私たちは抱き合って泣いて笑った。
祝いの席も終わり、二人の新居へと戻ると部屋に入るなりヴィルヘルムに抱きしめられた。
「ヴィルヘルム?」
「んー・・・」
回された腕がいとおしくて、私はその腕に手を重ねた。
「ラン、ありがとう」
「ふふ、どうしたの?」
「俺の家族になってくれて、ありがとう」
その言葉が耳に届いたとき、私は一瞬言葉を理解できなかった。
「・・・っ、ううん。私も、ありがとう」
涙を零さないよう、堪えるが声が震えた。
「あなたの家族にしてくれて・・・ありがとう」
ヴィルヘルムが私の髪に顔をうずめると、ぽたりと零れるものに気づいた。
ああ、もう駄目だ。
だって、ヴィルヘルムが泣いているんだもの。
私が我慢できるわけがない。
「お前のこと、大事にするから」
「うん・・・私も、大切にする」
振り返ると、お互い涙で顔がぬれていた。
「泣くなよ、ラン」
「ヴィルヘルムだって泣いてるじゃない」
「うるせー」
私の目じりをそっと拭ってくれたので、私もヴィルヘルムの頬に触れた。
「幸せになろうね」
「ああ、当たり前だ」
今日、3回目の誓いの口付けを。
私たちは夫婦になった。