卒業を控えたある日のこと。
私たちは新居の準備をしていた。
独身であれば、隊が所有している寮に入る決まりになっているけれど、
妻帯者持ちは決められたエリアの居住地に住むことができる。
二人で住むには十分な広さだと思う。
家具も必要最低限でひとまずは良いかな、という私に
ヴィルヘルムは「そこらへん、俺はわかんねーから任せる」と言った。
それがなんだかヴィルヘルムらしくて安心した。
「ねぇ、ヴィルヘルム。やっぱりカーテンはこの色で正解だったよね!」
「んー?ああ、お前好きそうだな」
私が選んだのは薄いピンク色のカーテン。
裾の部分には花の模様が散りばめられていて一目ぼれした一品だ。
それを誇らしげに見せる私を見て、ヴィルヘルムは微笑んでいた。
「もうすぐ卒業だね」
あとは寮にある荷物を持ってくるだけ、という段階まで準備は進んでいた。
真新しいソファに二人で並んで座る。
ヴィルヘルムの肩にそっと寄りかかると、私の頭を優しく撫でてくれる。
それが心地よくて、私は目を閉じた。
先日、お母さんに挨拶に行った時のこと。
お母さんにはヴィルヘルムと付き合っていること、結婚も考えているという話は既にしていた。
賛成することも、反対することもなく、お母さんは「そう・・・」と微笑んでくれた。
ヴィルヘルムがお母さんにきちんと挨拶できるのかな、って正直心配だったんだけど私の心配は無駄なことに終わった。
以前、ワルツを踊ったときのようだった。
あの時、騎士だったんだからそれくらいの心得があると話していたけれど、
まさかお母さんに対しても紳士的な対応が出来るだなんて思ってなかった。
滞りなく、挨拶も終わってお母さんも私とヴィルヘルムの結婚を賛成してくれた。
「大事な一人娘だから、幸せにしてあげてね」
「もちろんです。俺にとってランは唯一の人ですから」
そう言って笑ったヴィルヘルムの笑顔が、涙が出るほどうれしかった。
「ねぇ、ヴィルヘルム」
「んー」
ヴィルヘルムの膝に私の手を置く。
じんわりと彼のぬくもりが伝わってきて心地よい。
「ありがとう、ヴィルヘルム」
私を、好きになってくれて。
幸せにするとお母さんに誓ってくれて。
私を、唯一の人だといってくれて。
「ありがとうはまだ早いだろう」
「ふふ、そうだね」
卒業まであと少し。
私たちはもうすぐ家族になる。