二人で旅に出てから1ヶ月過ぎた。
急ぐ旅ではないので、進めるだけ進んで野宿したり、宿をとったり、まちまちだ。
野宿でも平気だって私が言っても、イシュマールは女性が野宿を安易に受け入れるものじゃないって怒るから宿になるべく泊まるんだけど。
「さっきなんで部屋二部屋あるか聞いたの?」
「何を言っているんだ。
君は若い娘なんだぞ、もう少し慎みを持つべきだろうが」
旅に出る前は二人で一緒に眠っていたのに、隙があればイシュマールは私と部屋を分けようとする。
まぁ、それを全部阻止して、私とイシュマールは同じ部屋で眠るし、一緒のベッドにもぐるんだけど。
「・・・ねぇ、イシュマール」
後ろからイシュマールに抱きつく。
隙間なんてなく、ぴったりと身体を寄せるとイシュマールがため息をついた。
「なんだね。君の意見が通って一緒の部屋になったんだ。
何の不満があるんだ?」
「・・・私のこと、嫌いになったの?」
「なっ・・・」
「だから部屋分けようとしてるの?」
「そんなことあるわけないだろう!」
私の腕を振りほどくと、イシュマールは振り返った。
それから私をきつくきつく抱きしめた。
「・・・自制が利かなくなるのが嫌なんだ」
「じせい?」
耳元でぽつりぽつりと話すイシュマールのいう事がよく分からない。
首をかしげると、再びイシュマールのため息が聞こえた。
「だから、こういう事だ」
少し身体を離したかと思えば、そのまま口付けられる。
それは久しぶりの感覚で、私は少し驚いたがそれよりも嬉しさが勝って、
イシュマールの背中に回した手に少し力を込めた。
しばらく重ねていた唇を離すと、イシュマールは頬を赤らめてぽつりと言った。
「・・・結婚前の男女が、あまりこういうことをするものではない」
「は?」
何を突然言い出すんだ。
イシュマールは頭が良いけど、馬鹿だと思う。
私はイシュマールの身体をベッドの上に突き飛ばすと、倒れこんだ彼の上に馬乗りになった。
「私はイシュマールのお嫁さんになるんだけど!」
「・・・っ、それは私からいずれ」
「いずれとかそのうちとかもうどうでもいいの!!
私とあんたはこれからもずっと一緒にいるし、寝る部屋は分けずに一緒のベッドで眠るし、キスだってするんだから!」
わーっまくし立てるように言うと、ぽかんとしていたイシュマールは笑い出した。
「ははははっ、君という人は・・・」
「なによ!」
ぷいっと顔を背けると、腕を引かれてそのままイシュマールの上に倒れこんだ。
キスをするみたいな距離に不覚にもドキっとした。
「・・・私は君が好きだ。ずっと一緒にいてくれ」
「だから言ってるでしょう?私はイシュマールのお嫁さんになるんだからずっと一緒よ」
「ああ、そうだな」
嬉しそうに笑うイシュマールを見て、私も嬉しくなって笑った。
今日も二人でぐっすり眠れそう。
いつも背中合わせで眠っていた私たちは、その日から抱き合うようにして眠るようになった。
それはそれでイシュマールは悩みがつきないようだけど、そこはもう気にしない!