つかまえた!(惇関)

「あ、夏侯惇」

街に買い物に出ているときのことだった。
偶然夏侯惇に出会った。

「っ!!」

私はそれが嬉しくて、夏侯惇の名前を呼んだけれど、夏侯惇は私を見るなり踵を返して走り出した。

「・・・?」

あまりに素早い反応だったので、私は追いかけることも出来ず立ちつくしていた。

「姉貴?どうかしたのかよ」

「う、ううん。なんでもないわ」

隣にいた張飛はそんな私を見て不思議そうにしていた。
きっと何かの間違いだろう。
そう思うことにして、私は張飛と買い物を続けた。

 

 

 

だけど、それからしばらく・・・夏侯惇は私の顔を見ると凄い勢いで逃げる。

「なんだ、どうかしたのか。関羽」

避けられる原因が分からず、私がため息をついているとたまたま通りかかった夏侯淵が声をかけてきた。

「夏侯淵・・・私、夏侯惇に何かしたかしら」

「兄者に?喧嘩でもしたのか?」

記憶を辿っても心当たりはなく、私は首を左右に振った。

「心当たりはないんだけど・・・夏侯惇を怒らせちゃったのかしら」

「うじうじ悩んでないで、兄者に直接聞けよー」

「ちょっ、夏侯淵!」

私の頭に手を伸ばし、髪をぐちゃぐちゃと撫で回すと私の抗議を無視して去っていった。
夏侯惇を捕まえよう。
何か怒らせたのなら、謝りたい。
話が出来ないだけでこんなに胸が苦しい。

 

 

散々探し回った末に私はようやく庭先で夏侯惇を見つけた。
逃げられないように私は気配を殺して背後へと近づいた。
かさ、と足音がしてしまい、夏侯惇は勢いよく振り返ろうとしたので
私は逃がさないために後ろから飛びついて、彼を抱きしめた。

「関羽!?」

私だと分かると声を上擦らせて叫ぶ。

「ななな!なんだ、急に!!」

「ごめんなさいっ、私が何かしたなら謝るから・・・!
逃げようとしないで!」

ぎゅっと強く抱きしめると、夏侯惇が息を飲むのが気配で分かった。

「・・・怒ってなど、いない・・・」

「本当に?」

「ああ」

「じゃあどうして逃げてたの?」

「それは・・・」

背後から抱きしめているせいで夏侯惇の表情は分からない。
けれど、耳を見ると真っ赤になっていることに気付いた。
ああ、照れてるんだ。
そう気付くと、私は安心して身体を離して彼と向き合った。

「教えて、夏侯惇」

「・・・これを」

「え?」

夏侯惇が手に持っていたのは、小さな花束だった。
桃色や黄色、白といった愛らしい色合いの花たちばかりで私は目を輝かせた。

「やる」

「嬉しい!ありがとう」

その花束を受け取ると、私は彼に微笑んだ。
照れを隠すためなのか、彼は私から視線を逸らす。
だけど、もうこないだのように逃げたりしなかった。

「女というものは、花とか小物とか、綺麗なものが好きだろう」

「・・・?」

「だから!お前を喜ばせたかったんだ!!」

「!」

怒鳴るように言われたけれど、私はその言葉が嬉しくて。
顔が熱い。ああ、夏侯惇みたく私も真っ赤になっているんだろうな

「ありがとう、夏侯惇。
すっごくすっごく嬉しいわ」

「・・・すまなかったな、逃げてばかりで。
お前を喜ばせたかったんだが、いざとなるとこう・・・恥ずかしくてだな」

「ううん、もういいの。
ありがとう、夏侯惇。大好きよ」

感謝の気持ちを何度も言葉にしてしまう。
それくらい嬉しくて仕方がない。

「・・・ああ、俺もお前が好きだ」

私が花束を胸に抱えていたからだろう。
壊れ物に触れるようにそっと抱きしめられる。

 

 

貰った花束は、枯れる前に押し花にした。
夏侯惇が初めてくれた贈り物はいつまでも私の宝物になるだろう。

 

 

 

 

 

Heaven’s様 「抱きしめたくなる10のお題 」

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