「コレットの作ったクッキー美味しい!」
「ふふ、どんどん食べてくださいね」
今は店内に私とユリアナの二人だけ。
ランチが終わって、ひと段落したその時間に私たちは遊びに来ていた。
お店が営業している時間だとお客さんに呼ばれて話が中断しちゃうから、たまにこういう時間を狙って遊びに来る。
ギードもコレットの息抜きになると言って、歓迎してくれるのでとても助かる。
「そういえば、部屋を片付けていたらこんな本を見つけたんです」
コレットが一冊の本を持って、私たちの隣へ座る。
その本は擦り切れていて、何度も何度も読まれて大事にされていたのだろう、という事が一目で分かった。
「眠り姫!私も昔、読んだなぁ」
ユリアナが目を輝かせた。
きっと女の子なら誰しも一度は夢中になったことがあるだろう。
私も幼い頃、何度も読んだのを思い出す。
「白馬の王子様が現れて、自分の目を覚ましてくれるって憧れてました」
「分かる分かる!思うよね、そういうこと!」
「ユリアナにとって王子様はユアンさん?」
私がそうたずねると、ぱっと顔が赤くなった。
そして、目を泳がせるとこくんと頷いた。
「白馬の王子様ってガラじゃないけれど、ユアンは私の王子様・・・かな」
「素敵っ!羨ましいです、そういう恋!」
コレットは両手を胸の前で合わせると、目を輝かせた。
「でも、ランにとっての王子様はヴィルヘルムでしょ?」
物語では、白馬の王子様が現れて自分の目を覚ましてくれる。
でも、私とヴィルヘルムの場合は、私が現れて、ヴィルヘルムは目を覚まさせられた。
確かに、私のまわりには実際の王子様がちらほらいたりするけれど。
「私にも王子様、現れて欲しいです」
ふぅっとため息をつくコレットに、ユリアナがにやりと笑う。
「ソロンとかどう?ソロンが来ると嬉しそうに見えるんだけどなぁ~?」
「っ!気のせいです!違います!」
顔を真っ赤にしながら必死に否定するコレットを見て、私たちは笑った。
女の子が集まると、やっぱり恋の話で盛り上がるし、凄く楽しい。
「おう、ラン」
「ヴィルヘルム、どうしたの?」
緑の滴亭を出て、ニルヴァーナへ戻る道すがらで、ヴィルヘルムと出くわす。
「ん?散歩がてら迎えに来た」
「え・・・?」
「あ、私用事思い出したから先に行くね!」
ユリアナは空気を察したかのように笑顔で走っていく。
その後姿に感謝しつつ、ヴィルヘルムを見つめた。
「ありがとう、嬉しい」
さっきまでユリアナが隣にいたのに、今はヴィルヘルムがいる。
自然と手を繋ぐ。一緒に歩くとき、こうやって手を繋ぐことが自然になったことがとても嬉しい。
じっと見つめていると、不思議そうに私を見返してくる。
「俺の顔になんかついているか?」
「ううん、なんでもないの」
「ふーん」
夕日に照らされて、ヴィルヘルムの髪が輝いてみえた。
王子様・・・というのとは、違うかもしれないけれど。
「ねぇ、ヴィルヘルム。
私がもしも呪いとかで眠ったまま目を覚まさなかったらどうする?」
自分でも子供じみたことを尋ねた、と思う。
だけど、なんていうのか聞いてみたくて口から出てしまった
「んー、目覚まさせるに決まってんだろう」
「どうやって?」
「ヴィルヘルム様に不可能はないだろ、ばーか」
「きゃっ」
空いてる手で私の頭をくしゃくしゃと撫で回す。
慌てて、手を離して私は髪を直すとヴィルヘルムは楽しそうに笑った。
「お前に何かあったら俺が絶対助けてみせるし、そもそもお前が危険な目に遭うようなことさせねーよ」
「・・・っ」
反則だ。
なんかもう、反則。
顔が熱い。誤魔化すように私はヴィルヘルムの腕に抱きついた。
「ママー、絵本よんでー」
「いいよー、何にする?」
「これ!」
渡された絵本は『眠り姫』
それを見て、昔のことを思い出す。
膝の上に座らせて、絵本を読んであげると凄く楽しそうに聞いていた。
何度も読み聞かせてるのに飽きないなんて、やっぱり女の子なんだなっと思う。
「ねぇ、ママ。
ママにも王子様、いる?」
「ママの王子様?もちろんいるわ」
彼譲りの紫色の瞳が私を映す。
「パパがママの王子様よ」
「きゃー!」
ばたばたとはしゃぐ姿を見て、私は微笑んだ。