今日は家に二人きり。
加奈と沙那は真緒姉さんが入院している病院へ今夜は泊まる!と言って出かけていった。
「姉さん、何か手伝おうか?」
夕食を作っていると、陸が台所に様子を見に来た。
「ううん、もう少しで出来るから大丈夫だよ」
「そっか」
そう言いながらも、私の隣に立つと料理をする私を観察するように見ている。
「どうかした?」
「・・・いや、なんだか姉さん機嫌良いなって」
「だって陸と二人きりになるの久しぶりだから」
ゆっくり二人でいられる時間というのは一緒に住んでいてもやっぱり少ない。
多分、そういう事も気遣って加奈と沙那は外泊してくれるのだろう。
陸は頬を赤らめて、私から視線をそらす。
「あんまり可愛い事言わないで、姉さん」
聞き取れるかどうかっていうくらい小さな声が耳に届いたかと思ったら後ろから陸に抱きしめられた。
「今日は二人きりなんだから、俺を試すような事あんまり言わないで欲しい」
「・・・だって、」
本当の事だから、と言ったら怒られそうだったから私は言葉を飲み込んで回された手に自分の手を重ねた。
「陸、料理できないよ」
「うん、ごめん。もうちょっとだけ」
背中から陸の体温が伝わってきて、それが心地よくてもう少しだけなら良いかな、と頷いた。
夕食が終わると、陸が後片付けをしてくれるというのでその好意に甘えて私は先にお風呂へ入った。
濡れた髪を丁寧にタオルでふき取ると、こないだエリカに貰ったフレグランスを少しだけ手首と首元へつける。
花のような、甘い香りが鼻腔をくすぐる。
陸と気持ちが通じ合ってからも相変わらず私たちは姉弟だと思っていた頃とそんなに変わらない。
陸は私のことを相変わらず姉さんって呼ぶし、さっきみたいに抱きしめたり・・・という事もあまりしない。
私から陸の手を取れば、頬を赤らめて嬉しそうに笑って手を握り返してくれる。
そういう時がとても幸せ。
だけど、陸は私のこと女の子として意識してくれてるのかなーなんて偶に思う。
部屋でそんな事を考えながら寝支度を整える。
「よし・・・!」
恥ずかしいけれど、小さい頃はやってたし!
私はいつも使っている枕を抱えて陸の部屋の前に立った。
ふすまを軽く叩くと、少し間を置いてから開いた。
「どうかした?姉さん」
陸もお風呂から上がったようで、まだ少し髪が濡れているのを見てドキっとしてしまう。
私が枕を持っていることに気付くと、私から視線を逸らした。
「今日、一緒に寝てもいい?」
「・・・姉さん、それは」
「今日は家で二人だけなんだよ?
・・・甘えちゃ駄目、かな」
勇気を振り絞って、陸の指先をきゅっと握った。
逸らしていた視線を私に戻すと、
「しょうがないな、姉さんは」
と笑ってくれた。
部屋に入ることは年頃になってから減ったけれど、陸の部屋は綺麗に片付いている。
普段私が読まないような雑誌や漫画があるのを見ると男の子の部屋だな、と実感する。
「陸は綺麗好きだね」
「姉さんもそうだろ?」
「うん、そうかも」
なんだか陸の部屋で二人きりという状況に自分でしたとはいえ、段々緊張してくる。
布団に潜ると、陸が部屋の明かりを消し、私の隣に布団に入った。
「なんか、照れるね」
「・・・うん」
暗くて、陸の顔はよく見えないけれど、きっと陸も私も赤くなっているんだろう。
「姉さん、もうちょっとこっち寄らないと布団から出ちゃうよ」
陸に肩を抱き寄せられ、私と陸の距離はあっという間になくなった。
私の首の下には陸の腕。
「・・・陸、なんかずるい」
「ずるいのは姉さんの方だよ。
なんかいつもより良い香りするし」
「・・・」
気付いてくれたという気持ちと気付かれたという気持ちがごちゃ混ぜになって、
心臓がばくばくとうるさい。
「小さい頃もこうやって一緒に寝たよね」
「そうだね。夜中に姉さんが俺の布団かけなおしてくれてたのとか知ってるよ」
「よく布団蹴っ飛ばしてたもんね」
二人で昔話をしながらくすくすと笑いあう。
それから少し、沈黙が生まれ
「・・・珠洲」
「・・・っ」
陸に名前を呼ばれて、思わず陸の顔を見ようとして顔を上げた。
私の唇に陸の唇が触れる。
気付けば私の上に陸がいて、部屋に月明かりが差し込んで、おぼろげに陸の姿が目に映る。
陸の真剣な瞳に私は息を飲んだ。
「りく・・・」
「もう俺は弟じゃない、珠洲の恋人なんだ。
分かってる?」
声にすると緊張で震えてしまいそうだったから、こくりと頷く。
「珠洲、好きだ」
陸からの口付けは、とても優しかった。
朝、目を覚ますとがっちりと陸に抱きしめられていて驚いた。
起きているのかと思って顔を見ると、まだすやすやと眠っていた。
「陸、好きだよ」
眠る彼の頬にそっと口付けた。