「ガラハット、この花すっごく綺麗!」
私が見つけたのは紅紫色の花。
小さな花が、まるで花束のように一つの茎から溢れていて、あっという間に心を奪われた。
「それはサクラソウだよ」
「サクラソウ?初めて聞いたかも」
初めて聞く花の名前に私はきょとんとしたんだろう。
ガラハットはくすりと笑うと、花の説明をしてくれた。
「春の花で、サクラっていう花に似ているからサクラソウって言うんだ」
「サクラっていうのも知らないわ」
「僕も見た事ないけど、大きな木に咲く薄いピンク色をした、極東の島国にしか咲かない花らしいよ」
「へぇ・・・そうなんだ」
ガラハットは花についてとても詳しい。
私もたまに書物を読んだりしているんだけど、全然ガラハットには敵わない。
(それにしても極東の島国かぁ・・・)
極東というのだからとっても遠いんだろう。
サクラソウがこんなにも素敵なんだから、きっと由来になったサクラはもっと綺麗なんだろう。
「いつか一緒に見てみたいね」
「・・・うん」
ガラハットに笑いかけると、照れたように視線をそらされる。
ガラハットのそういうところは年下だな、と微笑ましい。
そっとガラハットの手に、自分の手を絡める。
「・・・っ」
「ふふ」
「なに」
私が笑みを漏らすと、ガラハットを不機嫌そうな声を出した。
「ううん、幸せだなーって」
「・・・僕もだよ」
私はまた微笑んで、それから二人でゆっくり花を見た。
今日はこの後、ランスロットに用事があるけれど、時間にはまだ余裕があるから大丈夫かな。
「ねぇ、ガラハット。
少しあそこに座って休憩しましょ?」
「時間、大丈夫なの?」
「うん、まだ余裕あるから」
少しでも長くガラハットといたい。
恋人と過ごす時間は、やはりかけがえのないものだ。
二人でベンチに座り、日向ぼっこをする。
「それでね、マリーが・・・」
ぽすっとガラハットが私に寄りかかってくる。
肩にかかる重み。
「ガラハット?」
あまり動かないようにしつつ、ガラハットの顔を見るとすぅすぅと寝息を立てていた。
この暖かな日差しだ。
眠くなってしまってもしょうがない。
繋いでいる手をほどこうとすると、無意識なんだろうけど、強く握り返されて嬉しくなる。
眠っていても私と離れたくないって思ってくれるなんて、私は本当に愛されているんだな。
私もガラハットのことが大好き。
ガラハットの頭に自分の頭をこてん、と軽く触れさせる。
あ、なんかこういうの良いな。
おじいちゃんおばあちゃんになっても、こうやって手を繋いで、花を見たり、日向ぼっこしたり出来たら良いな。
そんな事を考えながら、私もついつい目を閉じた。
「姫王、こんなところに・・・」
約束の時間になっても一向に姿を見せない姫王を探して、庭園にやってきた。
何かあったのかと心配していたが、二人が寄り添って幸せそうに眠る姿を見て、思わず笑みが零れた。
約束は今日じゃなくても大丈夫だし、今日はこのままそっとしておいてやろう。
(姫王とその騎士の、つかの間の休息だな)
たまにはこういう日があってもいいだろう。
そんな事を思った穏やかな春の昼下がり。