卒業というものが見え始めたのは秋だった。
「ヴィルヘルムは卒業したらどうするんですか?」
「俺?
俺は特に戻る故郷もないし、このまま連合軍に入隊するかな」
元々戦うことしか俺には出来ないだろう。
急に現れて置いてもらった恩もある。
「アサカは?どうするんだ」
「僕は故郷に戻ろうと思っています」
「そうか」
確か、アサカの故郷は遠い島国だったはず。
そうなるとこれからは頻繁に会うこともなくなるんだろう。
「寂しくなるな」
「ありがとうございます。
でも、まだ先の話ですからね」
「ああ、そうだな」
アサカの点てた苦いお茶を一口飲む。
これを飲むことも数少ないのか。
「そういえば、ランはどうするって言ってるんですか?」
「ん?ラン?」
「はい。卒業後はどうするつもりでいるんですか?」
そう言われるまで考えた事がなかったので俺は呆けた表情をしていただろう。
アサカは、苦笑いを浮かべて
「まぁ、まだ時間はあるし、二人で相談すれば良いと思います」
「そうだなぁ」
後でランと話してみるか。
そう決めて、俺は苦いお茶を一気に飲み干して、むせた。
いつもの日曜日。
なんだかんだと森でのんびりしている私たちがいた。
「ラン、あのさ」
「どうかしたの?」
「卒業したらどうするんだ?」
「私は、教官になりたいって思ってる」
魔剣のことがあって、ここの生徒になったけれど、ほとんどの教官たちにはとても良くしてもらった。
だから、少しでもその感謝を私も同じ立場になって、生徒たちに伝えていきたい。
いつからかそんな風に考えるようになっていった。
「そうか・・・」
「ヴィルヘルムは?」
そういえば卒業後の話なんて全然した事がなかったかもしれない。
ヴィルヘルムの顔を覗きこむと、少し難しそうな顔をしていた。
「俺は、連合軍に入隊するつもりだ」
「そっか」
そんな気はしていたから特別驚かなかったけれど、そうなると今までのように毎日会うことは出来なくなるんだ。
さみしい、という気持ちがふと浮かんで、思わず俯いてしまった。
「お前と毎日会えなくなるのか・・・」
「え?」
ぱっと顔を上げて、隣にいるヴィルヘルムを見た。
「・・・ヴィルヘルム、さみしいの?」
じっと見つめると、じろりと見つめ返されてヴィルヘルムの両手が私の頭を乱暴に撫でる。
「ちょっ、ヴィルヘルム・・・っ」
「当たり前だろ」
強く肩を抱かれたせいもあるだろう。
顔に体中の血液が流れていくような、沸騰するような感覚。
ヴィルヘルムがさみしい、と思ってくれている?
この人は、自分の感情にとても疎い。
眠い・腹減った、と言ったような欲求には素直だけれど、
悲しい・寂しい・嬉しいといったよく分からないものに関しては酷く曖昧だ。
以前よりは大分良くなったとは思うけれど、私と毎日会えなくなる事が寂しいと思ってくれるなんて・・・
「ヴィルヘルム」
ぎゅっと横からヴィルヘルムに抱きつく。
彼の首元に額をくっつける。
「ヴィルヘルムが私と毎日会えなくなるって思って、寂しいって思ってくれてすっごく嬉しい」
「なんだよ、それ」
意味が分からない、というように怪訝な声がしたけど構わない。
「あなたが大好きってことよ」
頬に口付けると、ヴィルヘルムから抱きしめられた。