「あなたの耳は愛らしいな」
突然、孫権様に言われて私は驚いた。
持っていた湯のみを落としてしまうんじゃないかというくらいに。
「どうされたのですか?急に」
「いや、常日頃から思っていたのだが、あなたの耳は周瑜の耳と違うのだな」
「周瑜の耳は垂れていますね、私たちの一族でも珍しいと思います」
「そうか」
変わらずじっと見つめられてなんだか少し恥ずかしい。
孫権様の部屋で二人で並んでお茶を飲んでいたいつもの時間があっという間に恥ずかしくなる。
「そんなに見つめられると恥ずかしいです・・・」
「それは申し訳ない。あなたが愛らしいので、つい」
孫権様と、想いが通じ合うようになってから孫権様はそうやって当たり前のように私を褒める。
無自覚なのか、それがどうにも恥ずかしくて私はいつもこうやって動揺してしまう。
「少しだけ、触れても良いだろうか?」
「え、耳にですか?」
「嫌ならやめよう」
「いえ、大丈夫です」
孫権様は私と自分の湯のみを机の上に置くと、壊れ物を扱うかのように私の耳に触れた。
ぴくり、と耳が反応すると少し驚いた顔をして触れるのを躊躇する。
「嫌だったか?」
「いえ、少しくすぐったいだけです」
「そうか、もう少し触れてもいいか?」
「・・・はい」
恥ずかしくて、私の顔は風邪を引いた時のように赤くなっていそうだ。
ちらり、と孫権様の顔を見ると僅かに嬉しそうに口角を上げていた。
「今、耳がとても動いたが、痛かったか?」
「・・・っ!
いえ、それは多分・・・嬉しかったから」
「?」
「孫権様が嬉しそうに私に触れるので、私も嬉しくなりました」
「・・・っ」
息を飲む気配がして、そのまま私は抱きしめられた。
あまりそうやって触れてくる事がないので、私は抱きしめられるだけで心臓が早鐘のように打つ。
「あなたが愛おしくて仕方がない」
「孫権様・・・っん」
性急に口付けられて、孫権様の服の裾を握る。
いつも優しい口付けばかりなので、こんなに熱い口付けをされる孫権様がするなんて、と想うと頭がクラクラとしてしまう。
「っ・・・んっ、」
口付けの合間に呼吸を整えようとするが、すぐ唇がふさがれてしまう。
何度もそんな口付けを交わして、口付けが終わる頃には私はすっかり息が上がっていた。
「あなたは大事なことを忘れている」
「え?」
きっと私も同じなんだろう。
孫権様は頬を紅潮させ、口付けの余韻なのか瞳はすっかり欲情していた。
「私も、男だということを」
身体を離そうとする孫権様の服の裾をさっきのように握る。
驚いたように私の顔を見る孫権様をじっと見つめた。
「あなたも忘れています・・・
私が、あなたを愛しているということを」