サクラ(ガラアル)

凍える季節もようやく終わり、穏やかな春がやってきた。
花の手入れをしていても、季節関係なく咲いているが、いつもよりどこか元気に見えるから不思議だ。

「ねぇ、ガラハット。この花綺麗だよね」

僕の隣にいるのはこの国の王様。
姫王と呼ばれている彼女は、僕のただ一人愛する人。
彼女の笑顔は美しい。
彼女の笑顔は何度見ても、目を奪われてしまう。
今も、花に向かって微笑んでいる彼女はとても綺麗だ。
繋いでいるその手は僕よりも一回り以上小さい。
華奢な肩に、その身体に、彼女は国を背負っている。
初めて会った頃は何を甘いことを言っているんだ、と思っていたし、僕以外の多くの人はそう思っていただろう。
だけど彼女は逃げることなく、背負ったそれを、自分の目指す国のために頑張った。
懸命な姿に惹かれた。
僕が、彼女を守る騎士になりたいと強く願った。
欲というものは際限なく溢れるもので、何度触れても足りない。

「それはサクラソウ」

「サクラソウ?初めて聞いたかも」

アルが見ていたのは紅紫色の花。
春に咲く花で、その濃い色合いが目を引く綺麗な花だ。

「春の花で、サクラっていう花に似ているからサクラソウって言うんだ」

「サクラっていうのも知らないわ」

「僕も見た事ないけど、大きな木に咲く薄いピンク色をした、極東の島国にしか咲かない花らしいよ」

「へぇ・・・そうなんだ」

サクラの花は儚い。
儚いからこそ美しい、と書物には書いてあった。
いつか、君とその花を見ることが出来たら幸せだろうな。
そんな事を思っていると、

「いつか一緒に見てみたいね」

「・・・うん」

アルがそうやって笑うと、手を繋いできた。
「・・・っ」

「ふふ」

息を飲むと、くすっとアルに笑われる。

「なに」

僕がわざと不機嫌そうな声を出しても、気にせずにアルは微笑んだ。

「ううん、幸せだなーって」

「・・・僕もだよ」

アルといるとどうやっても幸せしかない。
この手が、いつまでも繋いでいられるように。
アルにふさわしい男でありつづけよう、とひそかに誓った。

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