あまり動物に触れる機会がないからよく分からないんだが、
関羽の耳は感情を表しているようで、耳が動くときがある。
「どうかした?夏侯淵」
「なんでもねーよ、馬鹿」
稽古の休憩中、関羽の耳をじっと見ていると、不思議そうな顔をしてこっちを見られた。
誤魔化すように悪態をつくと気にする風でもなく、関羽は俺に軽食を手渡してきた。
「そういえば今日の午後は夏侯惇と曹操は出かけるって言ってたけど、夏侯淵は行かないの?」
「今日は留守番だよ」
本当は一緒に行く予定だったのだ。
今回は危険なことは特にないし、関羽が残るのなら俺も残っていいかな、と思ったのだ。
いつも曹操様や兄者が関羽にちょっかいを出してるから、俺といる時間が少ない。
こうやって稽古しているときくらいしかないのが腹が立つ。
「そうなんだ、珍しいわね。
夏侯淵が夏侯惇と離れるなんて」
「俺だってな、兄者と一緒にいないときだってあるだろ!」
手渡された包みを開けば、ちまきが入っていた。
そのままかぶりつくと、口の中にうまみが広がった。
関羽の作る料理はうまい。
「これ、うまいな」
「本当?嬉しい」
俺の言葉を聞いて、関羽は嬉しそうに笑った。
すると、それと同時に耳がぴこぴこと動いた。
「なぁ、関羽」
ずっと思っていた事を思い切って言ってみよう。
今日は誰にも邪魔されないし。
「お前の耳、さわってみてもいいか?」
「え?」
きょとんと呆けた顔で俺を見つめていた。
危機感のない顔してるな、こいつ・・・
「だーかーらー!!耳、触りたいんだよ!!」
「・・・いいけど、どうしたの?急に」
「いいならもっと近くに来いっ」
手に持っていたちまきの残りを口に放り込むと、関羽の腕を掴んで抱き寄せた。
間近に見るその耳は困ったかのように耳が垂れていた。
驚かせないように優しく指の腹でなでてやると、関羽が声を漏らした。
「・・・っ、夏侯淵・・・その触り方、恥ずかしいわ」
「なんでだよ?気持ち良いんじゃないのか?」
「・・・くすぐったいだけよ。もう良いでしょう?」
離れようと、俺の胸を押してくるので片手で押さえ込むように肩を抱いて耳を触り続けた。
「やっ・・・夏侯淵っ、」
「もうちょっと」
「ひゃっ・・・!」
ぴくっ、と耳が跳ねたのが面白くて、俺はその耳を口に含んだ。
「もう駄目よっ!」
顔を真っ赤にした関羽が俺を力いっぱい突き飛ばした。
「関羽、お前・・・顔真っ赤」
「夏侯淵のばかっ!」
珍しく俺に悪態をついて、走り去ってしまった。
呆然としていると、後ろから声がした。
「夏侯淵さん、女の人はもっとうまく扱わないと駄目ですよ」
「っ、郭嘉・・・見てたのか」
「見てましたよ~。
夏侯淵さんったら嫌がる女の子に無理やりあんなことやこんなことを」
「人聞き悪いこと言うな!
俺は耳を触っていただけだろう!」
「でも、普通の女の子の耳だってあんな風に触らないでしょう。
ご機嫌取った方が良いと思いますけどね、それじゃあ」
人の悪い笑みを浮かべて、郭嘉は去っていった。
ご機嫌取り。
別に郭嘉に言われたからご機嫌を取るような真似をするわけじゃない。
たまたま・・・たまたま!
「おい、関羽」
関羽の部屋を軽く叩き、扉を開いた。
「夏侯淵、どうしたの?」
気にする風でもなく、いつも通りの顔で俺を迎えてくれた。
そのことに内心ほっとする。
「ほら、これ」
手に持っていた桃を関羽の目の前に突き出した。
「わぁ、美味しそう。
ありがとう、夏侯淵」
「ん」
「折角だから今一緒に食べましょう。
剥くからちょっと待ってて」
耳を見れば嬉しそうにぴこぴこしていた。
あー、触りたいな。
でも、また触ったらさっきと同じことの繰り返しになるから今日は我慢しておこう。
「おまえは桃、好きか?」
「ええ、好きよ」
嬉しそうに笑う関羽に目を奪われる。
「俺も・・・好きだ」
桃も、お前も・・・なんて、言えるわけがない。馬鹿。