寝台に潜ると、曹操が私を後ろから抱きしめてくる。
曹操の腕のなかは心臓がうるさいけれど、やはり安心する。
「曹操・・・」
おなかに回されている手に自分の両手を重ねた。
耳に軽く口付けされると、耳がぴくん、と反応してしまう。
曹操は私のそういう反応を見るのが好きらしく、いつもそうして触れてくる。
「どうした?関羽」
「・・・分かってるくせに」
そうやって曹操に触れられるのは、正直好きだから本気で拒んでいないことも彼は理解している。
だからっていつもやられっぱなしはなんだか悔しい、と思ってしまう。
「曹操にも耳があれば良いのに・・・」
十三支と人間の混血ということが生きていくのには邪魔だったのは分かっている。
けれど、もしも自ら切り落とさなかったら・・・
「もしも曹操にも耳があったらどんな風だったのかしら」
「どんな風とは?」
「色は何色だったのかな、とか。
私たちみたいにピン、と立っていたのか、それとも周瑜みたいに垂れてたのかな、とか」
想像してみるとちょっと面白い。
くすり、と笑うと曹操が耳を噛むように口に含んだ。
「っん!曹操っ」
「関羽、甘い声になってるぞ」
「だってそれは曹操が、」
耳への愛撫もそこそこに彼の唇は私の唇をふさいだ。
「やっぱり考えると見てみたくなる」
昔、劉備に頼まれて趙雲が使う猫耳を作ったことがあった。
曹操の耳がある姿をみたい、というささやかな欲望のために私は裁縫道具を取り出したのだった。
「おい、関羽」
部屋に篭って作業をしていると、扉を叩く音がしてから開いた。
夏侯惇が少し不機嫌そうに立っていた。
「どうしたの?夏侯惇」
「曹操様がお呼びだ。
ん?それはなんだ?」
「あ、これは・・・内緒よ」
完成したそれを机の上に置いて、笑ってごまかした。
夏侯惇に続いて、曹操の元へと向かった。
それからいくつか、仕事・・・というほどでもないけれど手伝いをして、再び夜が来た。
曹操はまだ仕事をしているようで、私は一足先に湯浴みをしてきた。
髪を丹念に拭き、耳がぴこぴこと動くのを鏡越しに見た。
ずっと猫族で暮らしてきたからあるのが当たり前だったし・・・
そんなに面白いものかしら、といつも思ってしまう。
ただ、感情が耳の動きにも出てしまうのが難点だ。
身支度を整えていると、曹操が戻ってきた。
「お疲れ様、曹操」
「ああ」
曹操も湯浴みをしてきたらしく、まだ髪が濡れていた。
私は座っていた椅子から立ち上がり、曹操を手招きした。
「座って、髪を拭いてあげるわ」
「お前はたまに私を劉備扱いしたがるな・・・」
「そんなことないわ、ただそのままでいると風邪を引いてしまうわ」
確かに猫族で住んでいた頃はそうやって劉備の面倒を見ていたけれど。
椅子に座ると、新しい布を用意してそれで曹操の髪を丁寧に拭いていく。
曹操はあまり手入れとか気にする人じゃないけれど、女の私が羨ましくなるくらいとても綺麗だ。
「あ、あのね曹操」
髪から程よく水気がなくなったので、私は昼間せっせと作ったそれを引き出しから取り出した。
「・・・それは?」
「曹操の耳よ」
「私の?」
「ええ、曹操に耳があるの見たいって思って・・・
駄目だった?」
私からそれを受け取ると、曹操はふっ、と笑った。
「いや、まさかこんなものをお前が作ってるとは・・・
私の妻は愛らしいな、と思っただけだ」
「・・・だって」
「それでは関羽がつけてくれ」
「ええっ!」
髪を整え、私はそれを曹操につけた。
「やっぱり曹操は黒い耳よね!私と一緒で立っているのが良いと思ったの」
猫耳をつけた曹操は凛とした雰囲気だけではなくて、可愛かった。
ついはしゃいでしまう私を見て、曹操は少し恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「お前が喜んでくれるなら、たまにはつけてもいい」
「ふふ、ありがとう」
何も感じないとわかっているが、私は曹操がいつも私にするように耳に口付けた。
「曹操、可愛いわ」
「む・・・それをお前に言われるのか」
少し不満げな顔になったが、大人しくされるがままになってくれた。
「ええ、私の旦那様は愛らしいわ」
「・・・関羽、お前には敵わないな」
そういって二人で微笑みあった。