季節が移り変わる。
春は好きだったなのに、今は嫌いだ。
だって、あの人と一緒にいられる毎日が今日で終わってしまうから。
「アトスさん、卒業おめでとうございます」
アトスさんは人気者だから部屋にいても邪魔が入るだろう、という事になり、
私たちは隠れ家まで移動した。
隠れ家に移動して、ようやく向き直り改めてそう告げると、
私の顔を見て、アトスさんがふっ、と微笑んだ。
「そんな表情をするな」
私の頭にぽん、と手をのせると優しく撫でてくれた。
「・・・どんな表情してますか?」
「寂しいって表情だ」
「・・・だって、卒業をおめでたいと思う気持ちは本当なんです。
本当なんですけど・・・、やっぱり明日からアトスさんがもう学校にいないと思うと寂しいです」
「ダルタニアン・・・」
優しく抱きしめられて、私は彼の胸に身体を預けた。
このぬくもりも明日からは感じられないんだと思うと余計悲しくなってしまう。
それをごまかすようにきつく抱きしめ返す。
「ダルタニアンが卒業する時には俺が迎えに来る。
それに休暇のときは会いに来る。
お前だって休暇のときは俺に会いに来てくれるだろう?」
「・・・はい」
「顔を上げてくれ、ダルタニアン」
恐る恐る顔を上げると、涙が零れそうになっていた目じりに優しく口付けられる。
「お前を、愛してる」
「・・・私もアトスさんを愛してます」
唇がそっと重なる。
何度か口付けを交わしているけれど、いつまで経っても私は慣れずに鼓動が早くなる。
「アトスさん、卒業おめでとうございます」
「ああ、ありがとう」
アトスさんは穏やかな笑みを浮かべてそう言ってくれた。
「ダルタニアン、どうした?」
「昔のことを思い出していたんです」
あれから数年経って、私は今アトスさんのお嫁さんだ。
彼は約束を守って、私が卒業する時には迎えに来てくれて、
厳しいご両親を私と一緒に懸命に説得してくれた。
今、私とアトスさんが夫婦でいられるのは一緒に頑張ってくれたから。
「アトスさんが卒業する時、私が寂しがってたら迎えに来るって約束してくれたでしょう?
それから一年後に本当に迎えに来てくれたなぁって」
「当たり前だろう、俺はお前を愛してるのだから」
優しく笑うと、私を抱き寄せる。
「アトスさん・・・私、今料理作ってるので危ないですよ?」
「少しだけ良いだろう?」
彼の苦手な野菜をふんだんに使ったスープ。
彼が食べやすいように、下味もつけてるし、大きさも小さくしている。
私が料理すると、必ず残さず食べてくれるんだけど外食のときはやはり野菜は嫌みたいで
道のりはまだまだ長そうだ。
「アトスさん、私毎日が幸せです」
アトスさんと過ごす毎日がキラキラと輝いていて、毎日毎日彼を愛おしいと感じている。
「ああ、俺もお前と過ごす毎日が幸せだよ」
後ろから抱きしめられる。
このぬくもりがとても愛おしい。
父が死んでしまって、私は独りになった。
そんな私の家族になってくれたアトスさん。
私のおなかに宿った新しい家族のことを伝えたら、彼はなんて言ってくれるだろう。
そんなことを思いながら、私は微笑んだ