多分初めての事だ。
今日は食料を買うためにインピーと買い物に出かけている。
出かけるときにドラちゃんが一瞬羨ましそうな表情をしたのが気になった。
「ドラちゃんも一緒に行かない?」
「お、いいじゃんいいじゃん!一緒に行こうか!」
「え、余は別に・・・!」
慌てるドラちゃんの手を取って、私たちは3人でのおでかけをすることになったのだ。
「カルディア!いつまで手を繋いでいるつもりだ!離せ!」
街に出ると、多くの人で道はごった返していた。
ドラちゃんの小さな身体が流されないように、私は繋いでいる手に少しだけ力を込めた。
「ドラちゃん、はぐれたら困るからこのままでいよう?」
「・・・っ」
「いいなぁ、ドラちゃん。
俺だってカルディアちゃんと手繋ぎたいなー」
「インピーははぐれないでしょう?」
「うぉぉん!カルディアちゃん冷たいっ!」
インピーとは何度も一緒に出かけているが、はぐれそうになったことはない。
だから手を繋ぐ必要はないと思うんだけど、それを聞いたインピーは悲しそうにわめいた。
「あ、じゃあこうしよう!」
インピーはあっさり立ち直り、ドラちゃんの空いてる手を取った。
「おい!何のつもりだ!」
「ほら、これで親子みたいじゃない?
幸せ夫婦と子供~って」
「止めないか!誰がお前たちの子供だっ!」
私、ドラちゃん、インピーと並んで手を繋ぐ姿は確かにたまに見かける親子みたいだった。
ドラちゃんは恥ずかしそうにして、手を離したがったけど、なんだか嬉しくて私もそのままにして歩いた。
「ふふ、楽しい」
いつも街に出るのは楽しいけれど、今日はいつもよりなんだか楽しい。
「なんだ?あれは」
食料も買い終わり、後は屋敷に戻るだけ、という時だった。
人だかりが出来ているのが見えて、ドラちゃんが不思議そうに質問した。
「あれはマジックじゃないかな」
「まじっく?」
「種もしかけもありませ~んとかいって、スプーン曲げたり、ものが消えたりする奴だよ」
「え、」
私もドラちゃんも驚いて、顔を見合わせた。
初めて聞く、そんなもの。
インピーはそんな私たちを見て、にっこり笑った。
「ちょっと見てみる?」
「うん!行こう、ドラちゃん!インピー!」
私たちは少し早足になって、その人だかりへと近寄っていった。
「ん・・・見えないな」
私の身長で、なんとか見えるくらいだったから小さなドラちゃんには全く見えないだろう。
私が抱えてもきっと見えないだろうし・・・
「よし、ドラちゃん。良い事してあげよう!」
そう言うや否や、インピーはドラちゃんを抱え上げて、肩に乗せた。
「はい、肩車~」
「・・・っ!!」
「凄い、インピー!」
満足げに笑うインピーと、少し恥ずかしそうだけど嬉しそうなドラちゃん。
3人でマジックをしばらく見ていたが、私はマジックよりもインピーとドラちゃんの笑顔が目に焼きついていた。
「凄かったな!シルクハットの中から鳩やうさぎが出てくるなんて!」
「また見ようね」
「ああ、そうだな!」
帰り道、ドラちゃんは興奮気味にさっき見たマジックの話をしていた。
ドラちゃんのこういう子供らしい姿を見ると安心する。
三人でまた手を繋いで、道を歩く。
ふと、視界に広がる影に目を落とした。
「なんだか、繋がってるみたいだね」
「あ、本当だ」
「・・・ああ、そうだな。
こういうのも、たまには悪くないな・・・」
ドラちゃんはその影を見て、穏やかに微笑んだ。
「まるで、家族みたいだな」
「うん、そうだね。
私たち家族みたいだね」
「じゃあカルディアちゃんは俺のお嫁さんかな?」
「それは違う」
「カルディアちゃんが冷たいー!!」
「お前たち、飽きもせずによくいつも同じやりとりをするんだな」
ドラちゃんの少し呆れたような声と、インピーとのいつも通りになったやりとり。
私はきっと、今日三人で過ごした時間を決して忘れないだろう。
また繋がる影を見て、私は微笑んだ。