大人への階段(パシュラン)

初めて異性を意識した
初めて・・・恋をした

誰にも渡したくない
俺のものにしたい、と初めて心の底から願った相手が、
俺を好きだと笑ってくれた。
そんな幸せ、初めて知った。

「パシュ、どうかしたの?」

「あ、いや」

ニルヴァーナは2週間の休みに入った。
みんな思い思いに過ごしており、俺とランもそうだった。
授業があるときは合間を見て二人で空き教室で話をしたり、
城下へ遊びにいったりしている。
視線がぶつかれば、自然と唇を重ねることもある。
そう・・・キスはもう何度もした。
けれど、それから先に進めない。
俺だって男だから、そりゃまぁ・・・色々したいって思ってるし、
ランが隣にいるとそういう気持ちになることもある。
けど、どう切り出して良いものか。

二人で海を眺めながらサモサを食べる。
これも俺とランの普段の様子だ。
サモサを口に運びながらもなんとなくランを見る。
ピンク色の髪なんて、綺麗だな。
瞳も綺麗な蒼で、とても映える。
薄紅色の唇に何度触れても足りなくて。
もっときつく抱きしめたい、といったらランは驚くだろうか。
もっと、触れたいと言ったら・・・

「あのさ・・・ラン」

空いている手をそっとランの手に重ねると、ランは少し頬を赤らめた。

「うん」

「俺、もっと・・・ランに触れたい」

「うん?」

小首をかしげるランは俺の言った意味を多分、理解していない。

「だから、その・・・
今日どっかに泊まっていかないっ?」

直球すぎるかな、と思ったけど思い切って言葉にしてみれば若干声が大きくなったし上ずったし。
ランは意味を理解したのか、顔が真っ赤になっていた。

「・・・うん、いいよ」

重ねていた手から熱が伝わってきたみたいに俺たちは二人とも顔を赤くしていた。

初めての二人の夜。
一体どういうところに泊まればいいのか、内心凄く焦っていたけれど、
海寄りの宿屋を思い出し、そこへ泊まることにした。
夕食は二人とも、いつもより食べられなくて、でも黙ると気恥ずかしくなってしまうから
俺は思いつくままに話を続けて、ランはぎこちなく笑っていた。

宿屋の部屋に着き、大きめなベッドが一つだけある部屋に入ると緊張は一層高まった。
俺、今夜・・・大人の男に・・・!?

「シャ、シャワーどうする?」

「あ・・・パシュ先にっ!」

ランは戸惑いがちにベッドへ腰かけると俺をシャワーへと促す。

「お、おう!」

浴室へ逃げるように入れば、間違えて冷水が出てしまい、思わず叫びそうになるが
そんな情けない姿を見せるわけにはいかない。
俺がリードしないと。
初めて同士なんだから、落ち着いて。
自分に何度も落ち着けと言い聞かせて、シャワーから上がればランはさっきと同じ姿勢のまま微動だにしないで待っていた。

「ランも入ってくれば?」

「う、うんっ」

目が合うだけで恥ずかしくて、俺は濡れた髪を何度も何度も拭きながらランがあがってくるのを待った。
どれくらい時間が経ったのか、俺の髪が大分乾いた頃に浴室のドアが開く音がした。

「あがったよ」

「・・・っ」

湯上りはとても目に毒だ。
タオルドライをしているであろうが、湿った髪と上気した頬、緊張で潤んだ瞳。
そして、何よりもバスローブ姿のランは今まで見たどのランよりも色っぽくて、どこを見ていいか分からなくなった。

「パシュ・・・っ!」

ランが驚いたような表情をした時には遅かった。
ぽたぽた、と俺の鼻から鮮血が流れていた。

「・・・っ!!!」

先ほどまで髪を拭いていたタオルを慌てて鼻にあてるが、見る見ると染まっていく。

「パシュ、横になって!」

さっきまでのちょっと気恥ずかしいムードは一転、ランは俺を横にして、鼻血をとめようと奮闘してくれた。
タオルを交換し、ようやく鼻血が止まる頃には俺は穴があったら入りたい気持ちになっていた。

「ラン、ごめん。
こんな情けない男でごめん」

「パシュ・・・」

顔を両手で覆う俺の頭を優しくランの手が撫でてくれていた。

「情けないだなんて思ってないよ。
ちょっと驚いたけど」

「・・・、」

「なんか知り合ったばかりの頃を思い出しちゃったね」

くす、とランが笑う声がして、俺はおそるおそる彼女の顔を見つめる。

「私は身体検査が終わって着替えてる時にパシュが入ってきて、
パシュったらその時も鼻血を出して・・・」

「わー!情けない話するなよっ!」

「でも、あの時パシュが男の子って意識したのよ?」

「俺だって、・・・いや、俺は初めて会ったときから・・・」

ランのこと、可愛いと・・・

「ねぇ、パシュ・・・」

俺の手をそっと両手で包むとランはそれを自分の頬へ当てた。

「ゆっくり大人になろ?
私たち、これからもずっと一緒にいるんだから」

「・・・ああ」

もっと触れたい、もっと繋がりたい。
そんな気持ちが強かったけど、俺にはまだ刺激が強すぎる彼女とのそういう行為。
ゆっくり進んでいけるように。
焦らなくても俺たちはこれから先ずっと一緒にいるんだもんな。

「ラン、好きだよ」

「うん、私も大好き」

それから触れるだけの優しいキスを交わした。

「で?こないだ外泊したパシュ君は童貞を卒業したの?」

寮に戻るとラスティンがにやりと俺を見て笑った。

「ばっ!!」

「あ、その反応は何もなかったな」

「うるせーよ!ばーか!!」

「・・・マジか」

冗談のつもりだったのか、俺の反応を見てラスティンは驚いたような顔をしていた。
それからぽんと慰めるように肩を叩かれたなんて、ランには絶対知られたくない。

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