甘い時間なんて無縁です(ヴィルラン)

バレンタインというものが存在する。
それは女の子が好きな男の子に愛を込めてチョコレートを贈る日のことを言う。
小さな頃は、私は父に贈っていたが、家族以外の異性に贈ったことはない。

 

「ランはどうするの?バレンタイン」

「え?作ろうかなって思ってる」

「私も作ろうと思ってたんだ!一緒に作ろう!」

ユリアナもユアンさんにあげるために作るというので、私たちはチョコレートを作ることにした。
初めて作る、本命のチョコレートということで私は気合が入っていた。
何度か試行錯誤し、それはついに完成した。
ラッピングも綺麗に行い、あとは明日になるだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

*******

バレンタイン当日

なんとなく、校内は浮足立っていた。
そもそも女生徒が少ないので、バレンタインというものを意識している人は少ないだろうと思っていたが、
そんなことはなく、いつも話さないような相手がなぜか扉を開けてくれたり優しい。
私はなんとなく、そういう相手をやり過ごすと、ヴィルヘルムをようやく見つけた。

 

「ヴィルヘルム!」

「おう、ラン」

ヴィルヘルムはいつも通りだ。
食事を終えたらしく、食堂を出ていこうとしていた。

「ヴィルヘルムはこの後空いてるよね?」

「ああ、何もないから森にでも行こうかと思ってたけど」

「私も空いてるから一緒にいってもいい?」

「いいけど、お前飯は?」

「まだだけど」

「ちゃんと食えよ。じゃあ、先にいってる」

ぽんぽん、と私の頭を叩くとヴィルヘルムは行ってしまった。
そんな私たちのやりとりをユリアナが見ていて、そっと肩を叩かれた。

「ヴィルヘルムってイベントとかに興味なさそうだもんね。
早くご飯食べて追いかけな?」

「う、うん」

朝食を慌てて食べると、ヴィルヘルムの後を追って森へ向かった。
なんでヴィルヘルムはあんなに森が好きなんだろう。
時間が空くと、いつも森へ行く。
デートではあまり行かなくなったけれど、それでもこうして空き時間があると森へ行くのだ。
森で何かしているわけじゃない。
ただ、ぼーっとしている。

「ヴィルヘルム!」

「早かったな」

いつもの木によりかかっていたヴィルヘルムは、私の姿を見て微笑んだ。
隣に座ると、ヴィルヘルムは大きく伸びをした。

「なんか今日はみんなそわそわしてるよなー。
変な感じする」

「そ、そうだね」

私はヴィルヘルムに悟られないように深呼吸する。
それから手に持っていた包みをヴィルヘルムに差し出した。

「これ、バレンタインのチョコレート」

「バレンタイン?」

「・・・女の子が、好きな男の子にチョコをあげる日よ」

「へぇ・・・」

ヴィルヘルムに見つめられて、顔が熱くなる。
ヴィルヘルムの顔を上目使いに見ると、感心したような顔をしていた。

「さんきゅー」

包みを受け取り、ヴィルヘルムは笑った。

「・・・えと」

なんだか拍子抜けした。
もっと驚いたり、照れたりするかと思ったけどいつも通りだ。

「私、ヴィルヘルムにバレンタインのチョコレートをあげたんだけど」

「おう、今そう言ったな」

「意味、分かってる?」

「女が好きな男にチョコ贈る日なんだろう?」

「・・・そうです」

なんで贈った私だけ恥ずかしくなっているんだろう。
ヴィルヘルムはそういう感情に疎いというか、恋愛事にはあまり分かりやすい感情が見えない。
いつも余裕に見えるのがたまに腹が立つ。

「ヴィルヘルムの、ばか」

ぽつりと呟くと、ヴィルヘルムの両頬を挟むとそのまま口づけてやる。
私からあまりキスをした事がないが、ヴィルヘルムがしてくれるのを思い出し、彼の唇を吸う。

「-っ!!」

薄目を開けると、驚いたように目を見開いていた。
それがおかしくて、私は唇を離すとにっこりと笑ってやった。

「ヴィルヘルム、好きよ」

「・・・おう」

「そういう意味が込められたチョコレートなんですけど」

「・・・おう」

キスの余韻なのか、チョコレートを渡した時とは打って変わって彼の頬が紅潮したままだ。

「感想は?」

「すっげー、嬉しい」

そのままきつく抱きしめられる。
こういう事に疎いヴィルヘルムに時折やきもきする事もあるけれど、
二人の思い出を作っていけたらいいかな。
そんな事を思いながら、ヴィルヘルムの背に手を回した。

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