インピーと二人で外出することは多くて週2~3回はある。
大体は食糧を買いに出かけている。
ついつい余計なものも買ってしまうから、ひと月に使うお金が足りなくなりそうになることもある。
インピーは空に行くための研究以外にも、機械の整備の仕事を単発で受けたり、発明品を売ったりしてお金をつくる。
今日は、機械の整備の仕事に出かけたインピーにお弁当を作ったので、届けることにしたのである。
インピーが働いてる場所は私も何度か顔をだしたことがあるし、周りの人もインピーと私が夫婦だと思っているので、
私が行くと、からかいながらもインピーを呼び出してくれる。
「あー!!インピーのお嫁さん!」
「こんにちは」
数人の子供たちが私の周りに集まる。
「お嫁さんお嫁さん!なんでインピーと結婚したの?
インピーのどこがすきなのー?」
「知りたい!インピーのどこがすきなのー?」
恋愛というものに興味があるのだろうか。
どこが好きなの?とかいつも聞かれる。
その度に私は困ってしまう。だって、インピーの好きなところなんてあげたらきりがないから。
「ふふ、それは内緒なの」
だからサンの真似をして、人差し指を唇に当てて微笑んでみせる。
「おれっ!カルディアのこと、すきだ!」
「俺も俺も!」
男の子たちは私の足に抱きつくというか、しがみつくような恰好になる。
いつも最終的にこうなる。
子供たちは無邪気でかわいい。
私は彼らに囲まれるインピーを見るのも好きだ。
「ちょ、ちょ、ちょ!!!
なーに他人の奥さんにちょっかい出してんだよー!!」
顔を上げれば、インピーが油にまみれた顔でこちらを見ていた。
「カルディアちゃんは俺のお嫁さんなのっ!」
子供たちを引きはがし、私をぎゅっと抱きしめる。
汗と油のにおいがする。
今日も一生懸命働いてくれてたんだ。
そう思うと、嬉しくて笑みがこぼれた。
「インピー、恥ずかしい」
「わぁ、ごめん!今日もお弁当持ってきてくれたの?」
「うん、おなか空いてるでしょう?」
「ありがとう、カルディアちゃん」
ちゅ、と額に口づけると私からお弁当を受け取った。
子供たちが囃し立てるのなんてお構いなしだ。
近くにあるベンチに腰かけると、私が持ってきたサンドイッチを美味しそうに頬張ってくれる。
インピーの方がずっとずっと料理は上手なのに、それでも私がつくるものを美味しい美味しいと言ってくれる。
それが嬉しくて、私はまた笑顔になった。
「あともう少しで終わりそうだから待っててくれる?」
「うん、わかった」
「ごちそう様!美味しかったよ」
「インピーが喜んでくれて嬉しい」
「あー!カルディアちゃんかわいいなぁ!
頑張って働いてくるねー!」
立ち上がると、私をぎゅっと抱きしめて、体を離し、仕事に戻っていった。
インピーの働く姿を見るの、すごく好き。
インピーはいつも私を笑顔にしてくれる。
研究しているときや仕事をしている時、真剣な表情をしているのも好き。
私はあまり表情豊かではないってわかっている。
だけど、インピーはそれを補うかのように表情豊かで、感情というものを教えてくれてるみたい。
「あのね、カルディアちゃん」
気づけばさっき私を囲んでいた中にいた一人の女の子が、私の隣に座った。
「どうしたの?」
「わたしね、アルくんが好きなの」
アルくんというのはさっき私の足にしがみついていた内の一人だ。
小さなこの子は、私に必死な顔をして訴える。
「どうすれば、カルディアちゃんとインピーみたいになれるの?」
「私とインピーみたいに?」
「ふたりでいると、お花が咲いたみたいになるの。
わたしも、そうなりたい!」
そんな風に見られていたというのが恥ずかしいけれど、嬉しい。
「私にも分からないけど・・・
私はインピーが大好きで、とても大事。
それを伝えるように頑張ってる。
インピーが、私にそうやって頑張ってくれたから・・・
今の私たちがあるんだと思う」
「どういうこと?」
「んー・・・つまり、焦っちゃだめってこと」
「・・・あせらない?」
「今の気持ちを、大事にしていけばいつかきっと叶うよ」
「わかった!ありがとう、カルディアちゃん!」
にっこり笑うその子が可愛くて、私も微笑んでいた。
数刻、時間が経った頃。
インピーが仕事を終えて、夕焼けに染まる道を手をつないで歩いていた。
「お疲れ様、インピー」
「カルディアちゃんのサンドイッチのおかげで頑張れたよ!
ありがとう、カルディアちゃん!」
「インピーに比べたらまだまだだよ」
「今日は俺が夕食作るからね。何食べたい?」
「インピーは働いて疲れてるんだから私が作るよ!」
「んー・・・じゃあ、一緒に作ろっか!」
インピーはにっこり笑ってくれるから私も笑顔で頷いた。
こんな風に穏やかな日々を過ごせる日が来るなんて思わなかった。
インピーに恋をして、共に過ごして幸せな日々が続いている。
毎日が色鮮やかに見える。
「今日、カルディアちゃんが子供たちに囲まれているの見て嬉しくなったんだ。
俺のお嫁さんはみんなに好かれてるんだって」
「インピー・・・」
私はゆっくり左右に首を振った。
「それは違うよ。
インピーがみんなに好かれてるから、私もみんなに好きになってもらえるんだよ」
私一人ならあんな風に子供に囲まれたりなんてしないもの。
だから全部インピーのおかげ
「いつもありがとう
インピー、大好き」
「カルディアちゃん・・・」
インピーの頬が赤くなっていた。
息をのむような顔をして、私の肩を自分の胸元に引き寄せた。
「俺、すっげー幸せだよ。
カルディアちゃんが傍にいてくれて、俺は世界で一番幸せ者だよ」
インピーの唇が、私の唇に触れる。
そのぬくもりに目を閉じそうになるが、慌ててインピーの胸を押す。
「ダメ!ここ、外!」
屋敷までの一本道だから周囲に人はいないけど、それでも恥ずかしい。
「じゃあ、急いで帰ろう!」
私の手を掴むと、インピーが走り出す。
引っ張られる形になって、私も走る。
「もう・・・!」
こうやって毎日一緒にいるけれど、どれも違う色をしている。
インピーがくれる幸せの色。
繋がれた手から伝わるインピーの体温が、私に幸せを与えてくれる。
「カルディアちゃん、大好きだー!」
夕焼けに染まる道。
私たちは子供みたいに走った。