毒が消えた彼女に、何を贈ろうか-
そんな事を考えていたある日の午後。
「なぁ、カルディア」
「なに?」
シシィと戯れているカルディアは楽しそうだ。
毒が消えてから直接触れることが出来るのが嬉しいらしく、シシィに触れていることがとても多い。
それはそれで良いんだが、俺に触れるよりも多い気がするのは気のせいだろうか。
カルディアの嬉しそうな表情を見れて、俺も幸せなんだけどな。
「お前、今欲しいものとかないか?」
「ううん、特にはないよ」
即答される。
本当に物欲のない奴だな・・・
女という生き物は装飾品とか、そういうもの欲しがって当たり前だと思っていたのだが、
深窓の令嬢のようなこの娘は、そういうものに一切興味がない。
そういう楽しみはこれから教えていけば良いか。
「そっか、俺ちょっと出かけてくるから。
夕方までには帰ってくるから良い子で待ってろよ?」
カルディアの頭をポンポンとし、俺は外出した。
カルディアが喜ぶもの。
今までいくつか、恋をしたことがあった。
好きな女に贈り物をしたことだってある。
けれど、カルディアに贈るものは今までの経験なんてまるで役に立たない。
きっとカルディアは俺が贈り物をしたらなんだって喜んでくれるだろう。
だけど、それに甘んじては泥棒紳士が廃るってもんだ。
カルディアの一番の笑顔はやはり俺が引き出したいから。
夕方になり、外はすっかり暗くなっていた。
ルパンは夕方までには帰るといっていたけれど、まだ帰ってこない。
夕食の下ごしらえも済ませ、残りはルパンが帰ってきてからにしようとリビングでシシィを膝の上に乗せていた。
シシィのぬくもりはとても暖かい。
動物だからだろうか。自分よりも高い体温を初めて知ったときは驚いた。
ルパンのぬくもりとは違うが、シシィのぬくもりも凄く好きだ。
「ルパン、遅いな・・・」
ぽつりと呟いた私の手をぺろぺろとシシィが舐めてくれる。
「ありがとう、シシィ」
知らなかった世界。
私の世界を形作るのはルパンの存在。
ルパンに出会って、恋をして。
何もなかった私が、人間になれたのはルパンのおかげ。
インピーやフラン、サンやヴァンの存在もとてもとても大事だけれど、ルパンは私に人を好きになるという事を教えてくれた。
私を何もない世界から攫ってくれた。
玄関の方から音がして、私はシシィをおろすと慌てて駆け出した。
「おかえりなさいっ!ルパンっ」
廊下でルパンに出くわし、私は勢いのまま彼にぶつかってしまうが、そんな私を驚いた顔をしてルパンは見下ろしていた。
「ただいま、どうした?血相変えて」
「ルパンが帰ってきた音がしたから、」
走ってきたなんて言ったら恥ずかしい。
まるで私の帰りを待ち焦がれていたシシィみたいだ。
そう思うと堪らず顔が赤らむ。
「カルディア」
名前を呼ばれて、伏せた顔を上げた。
ルパンの手には、真紅の薔薇。
驚いて、私はその花を見つめた。
「ルパン、これは?」
「受け取ってくれますか?
我が麗しのレディ」
ルパンは跪いて、私へ薔薇の花束をささげるような格好を取った。
「ありがとう・・・!ルパン」
真紅の薔薇を受け取ると、私は嬉しくてその薔薇ごとルパンに抱きついた。
「っ!花束潰れるだろう!」
ルパンが花束を持つ私の手を逃して、抱きしめ返す。
ルパンの首筋に顔を埋める。
ああ、ルパンのぬくもりだ。
「ありがとう、ルパン。
すっごく嬉しい」
「何が良いか色々考えたんだけどさ、やっぱり一番最初のプレゼントはこれだと思ったんだよ」
「?」
「それはさ、」
死ぬほど恋い焦がれています