ある秋の日。(真弘×珠紀)

―世界の為に犠牲になれ

幼い頃の俺が突き付けられた現実。
それがどういう意味なのか、理解出来るわけもなく、逃げることは出来ない。
いつか現れる玉依姫に期待なんて出来なかった。
希望なんて、打ち砕かれるんだから。
だから珠紀が俺たちの前に現れた時、俺は同情していた。
可哀想な奴だって。
突然、玉依姫だなんて言われて。
闘えと言われて戸惑うあいつが、可哀想だった。
まるで幼い頃の俺を見ているようだった。

 

 

 

 

「真弘せんぱーい、何してるんですかー?」

屋上の俺の特等席。
ここから羽ばたいてどこか遠くへ行けたら、と思った事は数えきれない。
俺は運命に抗うことにも疲れていた。
あいつが覚醒出来ないのは仕方がない。
それなのに、あいつの華奢な身体にのしかかる運命は酷く残酷だったと思う。

「空見てたんだよ」

「私もそっち行ってもいいですか?」

そう言うや否や、俺の返事なんて聞かずに上ってくる。
こいつは本当に・・・
普通、スカート穿いた女がここ上ってこようとするか?
誰もいないとは言え、下から丸見えになるのに。

「気をつけろよ!」

「はーい」

一段一段、梯子を上ってくる。
出会った時からそうだ。
無鉄砲で、黙って後ろで守られるのを良しとしない生意気な女だった。
お前に出来ることなんて何もない。
俺が守ってやるから。
そう思っていたのに、気付けば守ってやるからという想いから守ってやりたい、と強く願うようになった。
泣かせたくない。悲しませたくない。
笑っていて欲しい。
生きる事を諦めた俺を、もう一度生きたいと強く思わせてくれたお前を、守りたい。
誰かをキレイだ、可愛いと思うことは何度もあったけど、
誰かに心を奪われたのは生まれて初めてだった。
多分、もう二度と他の奴に奪われることなんてないだろうな。

「何笑ってるんですか、真弘先輩」

「いいや、なんでもねぇ
つーかお前パンツ見えるぞ、下から」

「誰もいないからいいんですー!」

ようやく上り終えた珠紀は俺の隣に腰掛ける。
正直、俺一人だとまぁ、余裕もって座れる程度しかないんだから二人だと狭い。
珠紀の肩が俺の肩に触れる。

「真弘先輩、もっとそっち行って下さい」

「馬鹿野郎!俺が落ちるじゃねぇか」

「だって狭いんですもん」

「当たり前だ、ったく・・・」

隣にいる珠紀を見れば、空を仰いでいた。

「すっごい綺麗ですねー!」

「ああ、そうだろ?」

二人で空を見上げる。
雲ひとつない、綺麗な青空だ。

「この俺様の特等席に座れるなんて感謝しろよ?」

「ふふ、分かってますよー」

秋晴れの穏やかな日。
世界が、微笑んだ気がした。

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