ある日の午後。
私は中庭をなんとなく散歩していた。
本当は午後も勉強する予定だったのだけれど、順調に行き過ぎて午前中に終わってしまったのだ。
たまにはゆっくり静養なさい、と言われて午後は気ままに過ごしているのだけれど・・・
(退屈ね・・・)
こうして散歩をのんびり出来るのも幸せだなーって思うけれど、何かしたい。
そうだ、折角だからみんなに差し入れでも作ろうかな。
思い立ったが吉日!と私は意気込んで厨房へと向かった。
「・・・なんだ、この甘ったるい匂いは」
メドラウトと廊下で出会うなり、嫌そうな顔をされた。
「これはチョコレートよ」
私の抱えるバスケットの中にはチョコレートを使ったお菓子が入っていた。
抱えている私にも届く甘い香り。
男の人は甘いものが嫌いなんだろうか。
以前もメドラウトはそういう表情をしていた。
「チョコレート?」
「疲れには甘いものが良いって言うでしょ?
だからみんなに、と思って」
バスケットから一つ取り出し、メドラウトへ差し出す。
「はい、どうぞ」
「・・・俺にか?」
「ええ、甘いものあんまり好きじゃない?」
私の顔と差し出したそれを交互に見ると、呆れたようにため息をつかれた
「えっ・・・?メドラウト!?」
手首を掴まれると、そのまま中庭の奥へと連れて行かれた。
「メドラウト!手、痛い!」
「・・・っ!」
言われて初めて気付いたというように目を見開き、私の手を解放した。
それから罰が悪そうな顔をして、私から顔を背けた。
「こんなところに来て、どうしたの?」
「お前、それを俺に食べてほしいか?」
「え?ええ・・・」
それはもちろんそうだ。
食べて欲しくて作ったのだから食べて欲しいに決まっている。
頷く私を見て、彼は奪うように私の手からお菓子を取り上げた。
口を大きく開くと、一口、二口・・・と食べていく。
メドラウトって素直じゃないけれど、優しいところもあるんだということを何度も私は触れて知っている。
その度、私は嬉しくて笑みをこぼす。
「何がおかしいんだよ」
「え?メドラウトが食べてくれて嬉しいなって」
食べ終わった指先をぺろりと舐める彼に、なんだかドキっとしてしまう。
「・・・お前はこれ、食べたのか?」
「味見でちょっとだけ」
自分で食べるよりみんなに食べてもらうのが目的なんだから。
ふーん、と言うと、私の顎にそっと手を添えて持ち上げられる。
何を?と思った時には、もうメドラウトの唇が私のそれに触れていた。
「-っ!」
舌が触れ合うと、甘いチョコレートの味が口内に広がる。
突然のことに動揺してしまい、抱えていたバスケットを落としてしまう。
それにも関わらず、メドラウトは私を離してくれない。
段々と苦しくなってきて、私は彼の胸を押しのけようと強く押すが、それでも彼は解放してくれない。
どれくらいそうしていたのか、分からない。
解放されたとき、私は身体から力が抜けてしまって、そのまま座り込んでしまった。
「これ、落としたからもう他の奴には渡せないだろ?」
落としてしまったバスケットから、お菓子がいくつか落ちてしまっていた。
それをメドラウトは拾ってバスケットに戻すと、バスケットを持ち上げた。
「僕がもらってやるよ、仕方ないからな」
「メドラウト・・・!!」
そのまま立ち去ろうとする彼の名前を呼ぶと、億劫そうな表情で振り返った。
「なに?」
「なんで・・・こんな、」
キスをされたのは初めてで。
いつか自分もそういうことはするだろうって思っていたけれど、まさかこんな風に奪われるなんて。
戸惑う私を見て、メドラウトがにやりと笑った。
「さぁ?考えてみれば?」
「メドラウト・・・!」
今度は振り返らず、そのままいってしまった。
自分でも驚くくらい、心臓が早鐘のように打っていることに気付いてしまった。
「・・・意味なんて分かんないよ、」
次に会ったとき、私は彼の顔をきちんと見れるだろうか。