春になったというのに、夜はまだ冷える。
夜中、突然目が醒めてしまい、喉の渇きもあったので、私は部屋から出て台所へ向かう。
その途中、私は見知った相手を見つけた。
「空疎様?」
「なんだ、貴様か」
縁側で、空を仰いでる空疎様だった。
「どうしたんですか?こんな時間に」
「寝付けなかったのでな。
一杯やっていた」
空疎様の傍らには徳利とお猪口があった。
月を見ながら、お酒を呑んでいたようだ。
「お隣、よろしいですか?」
「貴様は我の妻だろう。
遠慮することはない」
少しだけ寂しそうに見えた、空疎様の表情。
隣に座ると、私も一緒に空を仰ぐ。
「月が綺麗ですね」
「ああ、そうだな」
お酒を一口呑むと、私の肩を抱き寄せてくれた。
空疎様と触れている部分が暖かい。
「空疎様、先ほど何を考えていらっしゃったのですか?」
「ん?」
抱き寄せてくれている手に自分の手を重ねる。
空疎様は時々、寂しそうな顔をする。
私では埋められない隙間。
仕方がない事だけど、寂しい。
「寂しそうな顔をしていました」
「はっ。
貴様には敵わないな」
空疎様はおかしそうに笑った。
抱き寄せていた手はそのまま、私を抱きしめた。
「風波のことを考えていた」
「・・・やはりそうでしたか」
たった二人だけ生き残ったのに、風波尊様はあの戦いで命を落とした。
私が、空疎様を一人にしたんだ。
「貴様が責任を感じることではない。
あれと我の結末だったんだ」
「はい」
何を言っても無駄だから。
私は空疎様をきつく抱きしめ返した。
「私がいますから、空疎様」
貴方と、共にー
寄り添って、生きていきたいのです
「ああ、我は貴様がいれば・・・」
続きの言葉は聞き取れなかったが、きつくきつく抱きしめられる。
冷たいものが手に触れて、驚いて顔を上げた。
空を見上げると、はらはらと白い結晶が舞い降りてきた。
「・・・雪?」
「なごり雪か、」
「なごり雪・・・ですか?」
「ああ、春になったのに、降る雪のことを言う」
二人で空を眺める。
「空疎様、私は空疎様と一緒にいられて幸せです」
「当然だ、我を誰だと思っているんだ?」
にやりと笑う空疎様には、もうさっきの寂しげな表情はない。
「私の愛する夫です」
にっこり笑って、そう告げると空疎様は頬を赤らめて私から視線をそらした。
「今日は私の勝ちですね?」
「仕方がないな、我が妻は」
そう言うや否や、空疎様は私を横抱きにして抱えあげた。
「くっ・・・空疎様!?」
「静かに。夜中に騒ぐでない」
「それは空疎様が、」
「眠れないのだろう?我が添い寝してやろう」
「いえ、それには及びません!眠れます!」
「遠慮するな、我妻」
私の額に口付けを落とすと、嬉しそうに笑った。
「まぁ、貴様が眠れるかどうかは分からないがな?」
「-っ!空疎様・・・!」
言い出したら聞かない空疎様だけど、私も口で言うほど嫌がってはいない。
腕を彼の首に回し、しがみつくように身体を寄せた。
・・・我は貴様がいれば、幸せだ、
近い未来、二人は三人になる
そんな幸せの前のお話。