初めての恋(孫関)

同盟の為だけの形ばかりの結婚。
けれど、戦が終わった後も私は孫権様の妻でいる。
祝宴も上げていないので、形ばかりだけれど。
呉の人たちも、猫族のみんなも、私と孫権様は夫婦だと思っている。
私はまだ、孫権様の気持ちに応えていない。
二人でいる空気が酷く心地よくて、自然と笑みがこぼれる。

私は、孫権様のことをどう想っているのだろう。
自分でもよく分からない。
自分のことなのに・・・
自分の気持ちなのに・・・私にはまだ手に余るようだった

「お義姉様ーっ!お茶しませんか?」

尚香様が元気良く私の部屋へと入ってきて、お茶の誘いを受ける。
これもよくある光景で、私はそれが嬉しい。
尚香様は私にもとても気を使ってくれて、懐いてくれて凄く嬉しい。

「ええ、嬉しいです」

「お兄様も誘いたかったんですけど、今忙しそうだったので」

運んでもらったお茶を二人で口にし、他愛ない話をする。
尚香様の口から孫権様の話題が出る度にどきっとしてしまう。

「お義姉様、お兄様と何かありましたか?」

「え?」

「なんとなく、そんな気がしたんですの。
私でよければ、ご相談に乗りますわ」

にこりと微笑まれて、私は自分のもてあましていた気持ちを言葉にしても良いのだろうかと考える。
尚香様は何も知らないはず。
形ばかりの夫婦だという事も。

「・・・孫権様がお優しくて、私はその想いに応えられているのか、
少し不安になっています」

ぽつりぽつりと私は言葉を紡ぐ。
尚香様は私の言葉を聞き終わると、私の手をそっと包み込むように握ってくれた。

「お兄様、お義姉様と一緒にいるときとても嬉しそうにしていますわ。
お義姉様に何かして欲しいというより、ただ傍にいて欲しいだけだと思いますの。
勿論、自分の為に何かしてくれることもとても喜ぶと思いますけど、そんなに気負う必要なんかありません。
だって、二人はこれからも一緒にいるんですもの」

「・・・っ!」

これからも一緒に・・・
そうだ、私は孫権様と離れる未来を考えていただろうか。
・・・想ってもいなかった。
孫権様と離れることなんて

「でも、嬉しいです」

「え?」

「だって、お義姉様の表情見てるとお兄様に恋してるんだな、って伝わってきますもの!」

「こ・・・恋っ!?」

「あら、違いましたか?」

顔が熱くなるのを感じ、ごまかす為にお茶を飲み干す。
恋なんて・・・今までした事がなかったから分からなかった。
猫族のみんなといるときとは違う、穏やかな気持ち。
孫権様に偶に手を握られると心が落ち着かなくなるけれど、離して欲しくないと思っていた。
額に口付けられた時も・・・
私は、・・・

その後は尚香様と何を話したかあまり覚えていない。
夜、私は孫権様の部屋を訪ねる事にした。

扉を軽く叩き、名前を告げると少し驚いた表情で孫権様が私を招きいれてくれた。

「どうしたんだ。あなたが私の部屋を訪れるなんて珍しい」

「今日、尚香様とお茶をしたんです」

「そうだったのか」

「それで・・・その、孫権様ともお話がしたいなと思って」

「・・・そうか」

少し頬を赤らめると孫権様は私に座るように席を勧めてくれた。
私は持参した茶器を置くと孫権様の前にも置いた。

「あなたが淹れるお茶はいつでも美味しいな」

「ありがとうございます」

孫権様は優しい。
私に触れるときも壊れやすいものを扱うときのように触れる。
大事にされているかのようで、少し恥ずかしい。

「関羽・・・悩み事でもあるのか?」

「え?」

「なんだか緊張しているように見える。
私でよかったら話を聞かせてくれないか?
もしかしたら力になれるかもしれない」

真剣な瞳で私を見つめる孫権様に少し恥ずかしくなり、思わず俯いてしまう。

「私が悩んでいるのは・・・貴方のことです」

「・・・っ!」

「同盟の為の形ばかりの結婚だって思っていました。
けれど、ここで生活していく内に私は、貴方と過ごす穏やかな時間がとても愛おしいものだと思うようになっていきました。
これがどういう事なのか、私には良く分かりません。
でも・・・私は貴方を、」

私が言葉を続ける前に孫権様が私の肩を引き寄せて、あっという間に抱きしめられた。
孫権様の体温をこんなに近くに感じるのは、船の上で抱きしめられて以来だった。

「関羽、私はあなたを愛している」

耳元で優しく囁くように告げられる。

「何度でも言おう・・・それであなたが振り向いてくれるのなら。
以前、私はそう言ったな」

こくりと頷くと、そっと顎を持ち上げられて視線がぶつかる。

「あなたも・・・私と同じ気持ちだと思っていいんだろうか」

「・・・はい、
私もあなたを・・・愛してます」

恥ずかしいけれど、私も伝えなければと思った。
これが恋なんだ。
私は孫権様に恋しているのだ。

自然と唇が重なり合い、孫権様の温度が伝わる。
どれくらいそうしていたんだろう。
そっと唇を離すと、少し気恥ずかしくて私は孫権様をきゅっと抱きしめた。

「・・・っ!」

ぴくりと孫権様の身体が反応するのを感じて、恐る恐る顔を上げると顔を真っ赤にした孫権様がいた。

「あなたが、振り向いてくれることがこんなに嬉しいなんて。
私は幸せ者だな」

「孫権様・・・」

もう一度見つめあうと、再び口付けを交わした。

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