オレンジ(タクアイ)

俺は許されないことをした。
好きな子に優しく出来ない俺は、双子の弟に嫉妬していた。
彼女の大事なものを借りたあいつは凄く嬉しそうな顔をしていた。
それが羨ましくて、俺は酷いことをした。
そのせいで、弟は未だに眠りに着いたまま。
一人の幼馴染はこの世を去り。
そうして、俺が好きだったあの子とは離れ離れになった。
俺は弟の未来も、幼馴染の命も、あの子の笑顔も奪った。戻れるならどこに戻ればいいんだろう。
あの日、あのリボンを緩めなければこんなことにならなかったのか。
罪悪感にまみれて、罪から逃げれなくて、うまく笑えなくて。
周囲と一定の距離を保って、逃げる。
俺と似た罪悪感を抱えて、彼女が生きているなんて考えもしなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

「タクヤくん、どうかしたの?」

カズヤの病室で押し黙ったままの俺を見て、アイは不思議そうに俺を見ていた。
カズヤはリハビリで疲れたみたいで、今はすやすやと眠っている。
カズヤが眠ると、俺は時折不安に襲われる。
もしかしたら、また目を覚まさないんじゃないかって。

「いや・・・なんでもない」

臆病な俺とお前が、手を取り合って生きていけたらそれでいい。
彼女は長い髪を頭の上でまとめて、あのリボンをつけていた。
綺麗になった、と思う。
再会したばかりの頃は表情に陰りがあることもあったけれど、今はそんな様子はない。

「嘘、分かるよ。
タクヤくんが何考えてるか」

カズヤをはさんで向かい同士に座っていた俺とアイ。
アイはパイプ椅子から立ち上がり、俺に近づく。
そうして、俺をそっと抱きしめてくれた。

「大丈夫だよ、タクヤくん。
カズヤくんはちゃんと目を覚ますし、これからどんどん元気になるから」

同じ過去に囚われていた俺たちは、少しずつ未来へ進めているのだろうか。
たまに不安に襲われて、立ち止まることもあるけど。

「・・・アイ」

「なぁに?」

「胸、あたってる」

「えっ!?」

慌てて離れようとして、俺を抱きしめる手を緩めるから。
俺が代わりにアイの腰に両腕をまきつけるようにして逃がさない。
トクントクン、とアイの鼓動が聞こえて、目を閉じる。

「・・・タクヤくんの意地悪」

「好きな子ほどいじめたくなるんだよ、男は」

「もう・・・しょうがないなぁ」

俺の頭をそっと撫でるアイの手。
好きな子には優しくしたい。大事にしたい。格好つけたい。
そんな気持ちもあるのに、俺はうまく出来なくて。
優しくもできないし、大事にしてるつもりだけれど、伝わっているか分からない。
こうやって抱きしめられて甘やかされてたら格好もつかない。
いつか、俺がもう少し大人になったらきっとお前にもっと優しく出来るだろうし、
分かりやすく大事にもする。格好良いねって言わせてみせる。
だからその時も俺の隣にいて、笑っていて欲しい。
今はまだこんな想いも伝えられないから。

「アイ、好きだ」

この言葉に全ての想いを込める。

「私もタクヤくんが好きだよ」

夕焼けでオレンジ色の世界が夜に変わるまであと少し。
もう少しだけ俺の傍にいて。

 

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