アキちゃんと付き合うことになっても、私たちの関係は相変わらずだった。
朝、アキちゃんが迎えにきてくれて、放課後どこかに寄って帰ったり。
そんないつも通りの日々が続いていた。
「ねぇねぇ、湊戸さん」
今日も一緒に帰る約束をしていて、私はアキちゃんを下駄箱の前でぼんやりと待っていた。
いつもならアキちゃんの方が先にいるんだけど、今日は何かあったらしく少し待っていてとメールがあった。
そんな私にあまり関わりのない女の子が声をかけてきた。
確か体育の授業で一緒だったかな。
つたない記憶をたどりながら彼女の名前を探す。
「なにかな?」
思い出すことなく、私は作り笑いをして応えた。「いっつも一緒にいる人って湊戸さんの彼氏なの?」
一緒にいる人と言われてアキちゃんだと分かった。
以前から何度もされたことがある質問だ。
「うん、そうだよ」
「そうなんだ、残念。彼のこといいなって思ってたんだよね」
「え・・・と、」
悪意に変わったのか、目の前にいる彼女の真意が分からず戸惑う。
そうすると彼女はそれを察したらしく、にっこりと笑みをつくった。
「なんて冗談だよ。
でも彼、結構人気みたいだから取られないようにね」
「あ・・・うん」
結局名前を思い出せないまま彼女は去っていった。
入れ替わるように、アキちゃんが走ってくるのが見えた。
アキちゃんの姿が見えて、私はようやく安心できた。
「お待たせ、アイちゃん!」
「ううん、お疲れ様」
「帰ろうか」
「うん」
アキちゃんは偶に年下だなって思う可愛い笑顔を見せてくれる。
そんな事を言うと、彼は嫌みたいで少しすねられたことがあるから今は心の中にとどめておく。
「さっき、あんまり見かけない子と一緒だったよね?」
校門を出たあたりでアキちゃんは思い出したかのように言う。
きっとすぐ聞きたかったんだろうけど、私の表情で彼はなんとなく察したのかも。
「アキちゃんと付き合ってるのか聞かれてただけだよ」
「ふーん。なんて答えたの?」
「そうだよって答えたよ」
私の言葉を聞いて、アキちゃんは少し頬を赤らめた。
「そっか」
「駄目だった?」
「いや、アイちゃんの彼氏なんだなって改めて嬉しくなっただけ」
そんな可愛い事言われたら私も恥ずかしい。
顔に熱が集まるのを感じた。
毎日同じようにアキちゃんが隣にいてくれることに安心してる。
だけど、いつか他の誰かが私の隣からアキちゃんを奪うかもしれない。
そんな可能性をさっき突きつけられて怯えた。
「アキちゃん・・・手、繋いでもいい?」
「アイちゃんからそんな事言われるなんて、思ってなかった」
「私だって、それくらい」
アキちゃんの左手が私の右手に触れる。
きゅっと握るその手が凄く熱くて、驚いてしまう。
「アキちゃんの手、熱い」
「ガラにもなく緊張しちゃった」
「・・・ふふ」
ぐいぐい来るくせに、そういうところでは臆病になるアキちゃんが好き。
私の気持ちを考えて、引っ張ったり、背中を蹴っ飛ばそうとしたり、
壊れ物を扱うみたいに大切にしてくれたり。
色んなアキちゃんがいるなぁって付き合うようになってから気付いたの。
「アキちゃんが隣にいてくれて嬉しい」
「俺もすっごい嬉しいよ」
二人で照れ笑いを浮かべながらいつもの帰り道を歩く。
いつもの帰り道。
道路に映る私たちの影も、その手を繋ぎ合っていた。
いつまでも、私とアキちゃんが寄り添って一緒に歩いていけますように。
願うだけじゃない。
自分で叶えるんだ。
だってアキちゃんはそういう気持ちを私に教えてくれたから。