(ヴィルヘルム・・・起きて、ヴィルヘルム)
自分の中に別の誰かがいるというのは不思議な気分だ。
彼を起こそうと自分の中に何度か問いかける。
相変わらず、返事はない。
永い間眠りについていたというのに、彼はあまり起きてくれない。
私は彼と仲良くできるのかな。
自然とため息をついてしまう。
(・・・なんだよ、ため息ついて)
(ヴィルヘルム・・・!)
不機嫌そうな声が頭の中に響く。
ようやく起きてくれたらしく、彼は話し始めた。
(お前さ、用事ないのに俺のこと呼ぶなよ。
俺は眠いんだよ、わかる?)
(ごめんなさい・・・
でも、あなたと話したいと思って)
(なにを?)
(・・・えと、あなたがどういう人なのか、とか。
何が好きとか)
聞きたいことなんて考えていなかったとは言えず、私は思いつく限り言葉を並べる。
私の言葉が終わるのを確認すると、わざとらしいため息をつかれた。
(あのさー、そんなの知ってどうすんだよ)
(もっと・・・仲良くなりたいなって)
自分の身体の中にいるんだもの。
仲が悪いより、仲良くしたいもの。
私のそんな想いが届いたのか、彼はようやく他愛のない言葉を口にしてくれた。
それが凄くうれしかったなって、今でもそう思う。
おなかをゆっくり撫でながらくすりと笑うと、ヴィルヘルムが隣で不思議そうにしていた。
「どうしたの?ヴィルヘルム」
「お前が笑いながら腹撫でてるから」
「ああ、あのね。昔のこと思い出してたの」
「昔?」
「ヴィルヘルムがまだ私の身体の中にいた時のこと。
貴方に何度も呼びかけても起きてくれないし、すっごい困ったなぁって」
私に言われて思いだしたのか、ヴィルヘルムは少し機嫌悪そうになる。
「あの頃は起きたばっかりだったし、お前のことよく分かんなかったから」
「でも、何度も呼びかけてヴィルヘルムが起きてくれた時すっごく嬉しかったなぁってこの子にも話してたの」
膨らんだお腹の中にいる、私とヴィルヘルムの子ども。
まだ会えるまで時間がかかるからこうやって昔彼に話しかけた時と同じように自分の中で話しかける。お腹を撫でる私の手に自分のそれを重ねて、ヴィルヘルムも一緒に撫でてくれる。
こうやって家族になっていくんだな、と思うと胸の奥からじわりじわりと幸福が滲んでくるようだ。
「早く会いたいな」
「そうだね」
会ったらまず何を話そうかな。
私のこと。
ヴィルヘルムのこと。
あなたが私のおなかに宿ったと知った時、私たちがどれ程喜んだのか。
だけど、一番最初に言う言葉はもう決まってる。
”生まれてきてくれてありがとう”
「俺がお前のことも、子供のことも守るからな」
「うん」
二人が三人になるのはもうすぐ。