会いたい(アベラン)

アベルと離れて2年が経った。
手紙のやりとりは定期的にしていて、私の机の上にはアベルからの手紙の束がある。
アベルの手紙にはいつも近況と、私に対する気遣いが綴られている。
私の誕生日には、彼が選んでくれたプレゼントも同封されていた。
会いたくてたまらない夜もある。
アベルがよく座っていた席を見て、思わずため息をついてしまうこともあるし、
そんな私を見てユリアナが黙って頭を撫でてくれることもある。

 

「ラン、ちょっと良いかな」

ある日、廊下を歩いているとエリアス教官に声をかけられた。
魔剣があった頃は心配してくれて頻繁に声をかけられたが、2年も経った今では以前ほど声をかけられることもなくなった。

「はい、なんでしょうか」

「ロムアからの視察の件、聞いているか?」

ロムアと視察、といわれてすぐ頭の中でアベルと結び付かず、小首をかしげてしまった。

「視察って・・・アベルが来るんですか!?」

「そう聞いているよ、良かったな」

「ありがとうございますっ!いつ来るんですか?」

「来週のはじめだと聞いているよ」

「来週・・・」

来週アベルに会えるんだ。
さっきまで楽しみといえばユリアナとお茶を飲んでおしゃべりしたりしか浮かばなかったのに、来週アベルに会えるというだけでこんなにも待ち遠しい気持ちになるなんて。
その後、エリアス教官と少し話をして、別れた。
部屋に戻ると、アベルから私宛に手紙が届いていて、それにさきの視察のことが書いてあった。

(本当に来るんだ・・・!)

「ラン、どうかしたの?」

アベルの手紙を抱きしめていた私を見ていたユリアナが不思議そうに私を見ていた。

「あのね、来週アベルがロムアから視察で来るんだって!」

「え!良かったね!」

抱きつかんばかりの勢いで私のもとへ駆け寄って、両手を握ってくれる。

「うん、ありがとう。すっごくうれしい」

それからというもの、時間が流れるのがいつもよりずっと遅く感じた。
あと数日で会えるんだから、とはやる気持ちを抑えようとしていたせいなのか、身体の震えを何度か感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロムアからの視察がある当日。
私は授業を受けながらもチラチラと時計を確認していた。
昼に少し時間が取れそうだ、とアベルから連絡が来ていた。
早く時間が経てばいい、
そんなことばかり考えていたからだろうか。

(・・・あれ?)

視界がゆがむ。

「ラン?どうかしたの?」

隣の席のユリアナが小声で心配そうに言う。
大丈夫、と答えたかったのに、くらくらして、そのまま私は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

(・・・あれ?)

目を覚ますと、そこは教室じゃなかった。
驚いて、身体を起き上がらせようとすると私の手を誰かが握っていた。

「・・・アベル!」

それは私がずっと会いたくて焦がれていた相手だった。
私の手を握ったまま、彼は眠っていた。
久しぶりに見るアベルは記憶の中より少しだけ髪が伸びていた。
空いてる手をそっとアベルに伸ばすと、ぱちっと目が開いた。

「ラン、起きてたのか」

「今さっき。どうしてアベルが?」

握る手が緩められ、私はアベルの手を借りて体を起こした。

「お前が倒れたってエリアスから聞いた」

約束の時間になって現れたのは私ではなく、エリアス教官だったそうで、思わず睨むとエリアス教官が私が授業中に倒れて医務室に運ばれたということを教えてくれたそうだ。

「心配かけてごめんね」

「お前は無茶ばっかしてるんだな、相変わらず」

ため息交じりに言うが、その表情はひどく穏やかだった。
とくん、と心臓がはねた。

「会いたかった、貴方に」

「俺も、凄く会いたかった」

久しぶりにアベルに抱きしめられる。
彼の首筋に顔をうずめると、懐かしい彼の香りがする。

「ふふ、本当にアベルだ」

「当たり前だ」

会ったらあれも話そう、これも話そうと思ってたのに言葉にならない。
ただ、抱きしめられているだけでこんなに満たされるなんて。

 

それからの視察はキオラ様が取り計らってくれて、私もアベルに同行することが出来た。
3日間はあっという間に過ぎて、ロムアへ帰る日がやってくる。

「アベル、会えてうれしかったわ」

「俺もだ」

ルナリアの木の下で手を繋いで語らう。
本当は部外者は立ち入り禁止なのだけど、元生徒と言う事で多めに見てもらえた。

「またしばらく会えないけど、私待ってるから。
アベルが私を迎えに来てくれるの」

「早く迎えに来れるように頑張るからな。
他の奴、見るなよ」

不機嫌そうに言うアベルの顔は少し紅くなっていた。
ああ、照れてるんだな。
そう思うと自然と笑みがこぼれた。
以前、ここでわんわん泣いたのに、今日は大丈夫そうだ。
だって信じることが出来るから。

「私はアベルだけが好きだよ」

「・・・俺もだ。
俺も、お前だけが好きだ」

そっと抱き寄せられると、誓い合うかのように唇を重ねた。

迎えにきたといって、突然アベルが来るのはもう少しだけ先のお話。

 

 

 

 

 

 

 

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